第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
ゆっくりと杏寿郎さんの唇が離れ、目を開くと、その燃えるような炎の隻眼と目があう。
この瞳が
声が
手が
心が
好き
大好き
自分の胸に広がる杏寿郎さんへの愛を噛み締めていると
「さて!君にはまだ叱られるべき相手が残っている!宇髄のところへ向かうにはまだ早い故、やはり一度俺の邸に来るといい」
杏寿郎さんは空を見上げ、太陽の位置を確認しながらそう言った。
「…叱られるべき……相手?」
頭の中に自分の知っている人たちを思い浮かべてみるも、パッと思い浮かぶ相手はすでに叱られた人たちばかり。
…誰か…他にいたかな…?
視線を上に向け懸命に考えてみるもやはり思い当たる人の顔は浮かんでこない。
杏寿郎さんは僅かに寄ってしまった私の眉間の皺を人差し指でつんとつつき
「君の大切な相棒は、あの日俺がずっと預からせてもらっている。あんな主思いの子を忘れるとは、少し薄情過ぎやしないか?」
普段吊り上がり気味な眉を、更に上げながらそう言った。
…そうだ…人の事ばっかり思い浮かべてたけど…私には大事なあの子がいるじゃない……!
「…っ和…!」
金平糖が好きな、じぃちゃんが好きな、お喋りな、名前の通り和んでしまうようなおっとりとした私の可愛い相棒の和。
「最近は元気になったが、君に置いていかれた当初は酷い落ち込みようだった。そしてそれ以上に、君が見つかったと伝えた時の喜びようはそれはもう凄かった」
「…そうですか…」
「あぁ。言わずとも理解していると思うが、鎹鴉は俺たち鬼殺隊士にとってなくてはならない存在。大切にせねば駄目だ」
あの日私は、和に杏寿郎さんへの文を持たせ、そのままいなくなった。鴉とは思えないあの可愛らしい性格の和が、私に置いていかれて平気だったわけがない。
「……杏寿郎さん」
「なんだ?」
「…街に行って、和の好きな金平糖を買ってあげたいです…邸に行く前にそっちに行ってもいいですか?」