第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「君は、隊士を辞める気はないんだな?」
杏寿郎さんのその言葉に、私は目を大きく見開き固まってしまう。
"隊士をやめる"
「………」
私は、今までのように隊士として戦えないのであれば、自分に存在価値などないと思っていた。杏寿郎さんの側にいるべきではないと思っていた。けれども杏寿郎さんが、しずこさんが、そんな事はないと教えてくれた。
こんな私でも受け入れてくれると言うのであれば、左耳の聴力が完全に元に戻る保証がない今、隊士をやめ、別の道を探すという選択肢もあるのかもしれない。
私を好きだと、ただそばにいてくれるだけで良いと言ってくれる人がいれば、それだけで私は"私"でいられる
"だったら無理せずやめちゃいなよ"
心の中の弱い私がそう言った。
…それじゃあ駄目…だって…もしもその人が私の前からいなくなることがあったら?
そんなことは考えたくもない。それでも絶対にないといえる保証などどこにもない。そしてもし本当にそれが起こってしまった時、私はまた、何もかも投げ出し、逃げ出し、自分を見失ってしまうかもしれない。
そんな事は…もう絶対にしたくない
一旦視線を下げ、その後再びそれを元に戻した私は、杏寿郎さんの隻眼をジッと見据える。
「もし許されるのであれば…私はまた、鬼殺隊士として…戦いたいです」
自分の心で
自分の脚で
きちんと立ちたい
これから杏寿郎さんのそばに
いるのであれば
誇れる自分でありたい
杏寿郎さんは私のその言葉を聞き
「…鈴音ならそう言うと思っていた」
ニッコリと、太陽のような笑顔を浮かべると、私の背中に腕を回し、私の身体をギュッと抱きしめてくれた。
「俺はそんな君が好きだ。本音を言ってしまえば、ただの恋人として、そばにいて欲しいと思う気持ちもある。だが君は、君が信じる道を進め。そして必ず俺の元に戻って来て欲しい」
私はその言葉に応えるように杏寿郎さんの大きな背中に腕を回した。
…この暖かな背中にずっと、ずっと触れていたい
「はい」
それでも、迷いながら、悩み立ち止まりながら、私は自分の足で自分の道を進む。その道が、いつか杏寿郎さんとの明るい未来に繋がることを信じて。