第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「…継子候補が逃げ出してしまうほどですからね。もう少し、それぞれの隊士の実力に合わせてあげたらどうです?」
「むぅ…」
杏寿郎さんは私の提案にはあまり納得がいかないようで、腕を組み、僅かに眉を顰めた。
…まずい。余計なこと言っちゃったかな…
そう思った私は
「…それで、今はどこに向かっているんですか?」
話題を変えようと、杏寿郎さんの顔を見上げながら尋ねた。
「俺が今、隊士の訓練場としてお館様よりお借りしている邸だ」
「…邸って…炎柱邸ってことですか?」
「そうと言えばそうなのだが、鈴音も知っての通り、俺はもう正式な柱ではない。故に炎柱邸という表現は相応しくない」
そんな風に言う杏寿郎さんに、私は思わずピタリと足を止め
「……」
「どうかしたか?」
ジッとその隻眼を、半ば睨むように見た。
「…そんな風に言わないで下さい。誰が何と言おうと…杏寿郎さんは炎柱です。みんなもきっとそう思っています!」
私のその言葉に、杏寿郎さんは困ったように両眉の端を下げた。けれどもすぐにいつものきりりとした表情に戻り
「ならば皆のその気持ちに応えられるよう、頑張らねばならないな!」
いつもの快活な声でそう言ってくれた。
「…私も…一緒に頑張ります」
ボソリとそう呟いた私に
「君がいれば百人力だ!頼りにしている!」
杏寿郎さんは満面の笑みを浮かべそう言った。そして
「鈴音」
身体の正面を私へと向けると、その熱い隻眼で私の目をじっと見つめて来た。そんな様子から、何かきっと大事なことを言われるのだろうと、私も杏寿郎さんのそれをじっと見つめ返す。
……何を…言われるんだろう…?
緊張から胸がドキドキと大きな音を立てる。しばらく互いに見つめ合った後、きゅっと口角を上げながら閉じられていた杏寿郎さんの口元が動き始た。私は紡がれてくる言葉を聞き逃すまいと、その口の動きに注視する。