第2章 脱兎の如く
…帰っても…いいかな。
そんな考えが私の頭をよぎった時、
「お前らなぁ…いつまで待たせりゃ気が済むんだよ」
「…っ」
気配もなく突如背後から聞こえてきた声に慌てて振り返る。
そこには、呆れた顔で3人の美人を見ている、
っデカ…こんな大きな人…今まで会ったことない。
けれどもそれ以上に気になったのは、
…なんでこの人…顔がこんなに派手なの?
体格のいい男性を苦手とする私が、その大きな見た目以上に気になったのは、その派手に彩られた顔と、顔周りにつけられている煌びやかな装飾品達。
驚きのあまり、私がその顔をポカンと見ていると
「なんだぁ?この派手な色男、宇髄天元様に見惚れちまってんのかぁ?だが悪ぃな!俺はこいつら一筋だ!新しい嫁を取るつもりは少しもねぇ!諦めな!」
と、意味不明な事を言われてしまった。
嘘でしょ?この人が元忍で、音柱の宇髄天元様?
「…あ…いえ…一切そんなつもりは…ないので…あの…ご安心を…」
「隠すな隠すな!…それで、お前が、お館様が仰ってた荒山鈴音かぁ?感覚の優れた優秀な隊士だっていうからどんな奴かと思ったら…思ってたより地味な奴だな」
先程から音柱様の口から発せられる、派手だとか地味だとか言う言葉にかなり戸惑っていた事で、私はまたしても、上官に対して名を名乗ると言う行為を忘れてしまっていたことに慌てて気付く。
「…っ…名乗るのが…遅くなってしまい申し訳ございません!先程、音柱様がおっしゃられました通り、私は階級"辛'、荒山鈴音と申します。元鳴柱、現雷の呼吸の育手をしている桑島慈悟郎の弟子でございます」
そう言いながら丁寧に頭を下げた。
けれども、
「そんな上っ面な態度は俺には必要ねぇ。お前、俺みたいな派手に体格がいい男が苦手なんだってな?ついでに人よりも耳がよくて感覚が鋭いんだとか?」
そう言って、音柱様はその特徴的な化粧が施された、赤みがかった瞳で私のそれをじぃーっと値踏みするように見る。
「…っそこまで…聞いているんですね…」
正直に言うと、そこまで私の内面に関わることを知られているのは、いい気分とは言えなかった。