第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
蝶屋敷を出て(どちらかといえば追い出されたと言った方が正しい)、私は何処かへと向かう杏寿郎さんに手を引かれ歩いていた。
ここはまだ蝶屋敷からも近く、誰に見られるかもわからないから手を離してほしいとお願いしたのだが
"また何処かへ行ってしまっては困る"
と、言われてしまえば私がそれ以上何かを言えるはずもなく黙って手を引かれることにした。
…杏寿郎さん…一体どこに向かってるんだろう
そう思いながら正面を向いたその時
「…っ!」
あの日の3人組の姿が、私の目に飛び込んで来た。
私は思わず、杏寿郎さんの手を振り解こうと、右手を大きく振り動かした。けれども、その手は全く離れてくれる様子はなく
「…おねが…っ…離して…!」
早くなんとかしなくてはと焦り狼狽えた。そんな私に
「大丈夫だ」
杏寿郎さんは足を止め、私の右耳へと顔を寄せながら優しい声色でそう言った。
"大丈夫だ"
鼓膜を優しく揺らす杏寿郎さんの声が、私の心を酷く安心させてくれる。
大丈夫気にしない
私が信じるべきは
杏寿郎さんの気持ち
私をのことを
大切に思ってくれる人達の気持ち
あの3人は私の人生にとって
重要な存在なんかじゃない
そう自分に言い聞かせながらすっかり地面へと向いていた目線を上げると、踵を返し去っていく3人の背中が見えた。
…よかった
ホッと息を吐いている私の顔を覗き込み
「俺の稽古は厳しいからな。邪な気持ちで続くわけがない」
杏寿郎さんはそう言った。その言葉から、あの3人がもう杏寿郎さんの稽古を受けていないことが窺い知れる。稽古に参加しなくなった後ろめたさか、はたまた杏寿郎さんと共にいる私の姿を見て不味いと思ったのか、どちらかはわからないが、とにかく彼女たちと関わらなくて済んだことに私は胸を撫で下ろした。
「最初はたくさんの隊士が俺に稽古をつけてほしいと来ていたのだがな。いつの間にやら減っていた。全く困ったものだ!」
わはは!
そう言って笑っている杏寿郎さんは、残念ながらちっとも困っているようには見えず、私は思わず苦笑いをしてしまう。