第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
なんとか言葉を搾り出し
「…そう…なんですか…?」
私が胡蝶様へと視線を向けると、胡蝶様は肯定を示すようにゆっくりと頷いた。
…まさか…あの栗花落さんが…?
確かにあの時、確実に私と栗花落さんの目は合った。けれども、私が知っている栗花落さんは、わざわざそれを杏寿郎さんに伝えるような印象ではなかったし、そもそも私と杏寿郎さんが恋仲だなんてことを知っていたとは思えない。
私を迎えにきてくれた時の言動から、なんとなく私に何が起こったのか杏寿郎さんは把握しているんだろうなとは思っていた。けれどもまさかそれが栗花落さんから聞いたことだったとは、正直に言ってしまうといまいちピンと来なかった。
「正確に言えば、胡蝶の継子が竈門少年に話し、その内容を竈門少年が俺に教えてくれた」
「…え?…炭治郎君に…です…か?」
栗花落さんが炭治郎君に…なんで…どうして?
''なぜ?""どうして?"の2つが頭の中をぐるぐると回り、若干混乱気味になっている私の様子が面白かったのか、胡蝶様がクスクスと笑っていた。けれども、コホンと一度咳払いをすると
「カナヲは…炭治郎君からいい影響を受けているようでして。鈴音さんを心配し、探し回る炭治郎君、善逸君を見て、自分の見た事が何かの役に立てばと…そう思ったようです」
とても優しい微笑みを浮かべながらそう言った。
「…そんなことが…」
私はこの時ようやく、"栗花落さんは炭治郎君のことが好きなのかもしれない"という可能性に辿り着いた。
「私は、周りの人の気持ちを感じ取り行動することが、その人に、遂には自分にとっていい影響を及ぼすと、カナヲにもっと知ってもらいたいんです。コインの裏表で何かを決めるのではなく、自分の意思で、自分の道を決めて欲しいんです。ですので鈴音さん。こんなことをお願いするのは気が引けるのですが、カナヲにあなたから直接、お礼…とまでは行きませんが、話をしてあげてもらえませんか?」
「俺からも頼む。彼女のその話を聞かなければ、正直なところ俺は君を探そうなどとは思わなかった。姿を消すこと、それが君の意志であれば何も言うまいと…そう思っていたからな」
杏寿郎さんはそう言いながら、私の肩に置いたその手の力を僅かに強めた。