第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
その後ひとしきり笑い終えた胡蝶様が
「今日の診察の話は以上になります。ですが、お帰りになる前に、鈴音さんにひとつ聞いて頂きたい話…というよりも、お願いがあります」
そんな事を言ってきた。
「私にお願い?…私でできることであればなんでもしますが…なんでしょう?」
何をお願いされるのか、全く見当がつかず思わず首を傾げてしまう。そんな私に向け胡蝶様の口から発せられたのは
「私の継子のカナヲのことです」
胡蝶様の継子、栗花落カナヲさんの名前だった。
「…っ!」
その名前とともにパッと頭に浮かんだ、胡蝶様に負けないくらい可愛らしい容姿を持った栗花落さんの姿。それと付随して、あの日の苦く苦しい出来事が鮮明に思い出されてしまう。
「…っ…栗花落…さん…ですか?」
ギュッと心臓が強く締め付けられ、思わず言葉に詰まってしまった。
「はい。本来であればあまり私が口を出すべきことではないのですが…カナヲにとって今はとても良い時期なのでお伝えしたいと思いまして」
「…っ…あの…栗花落様から…私のことについて何かお聞きになっていますか?」
私が胡蝶様に恐る恐るそう尋ねると
「その件については、俺から話そう」
正面にいる胡蝶様ではなく、背後にいる杏寿郎さんから返事が返って来た。杏寿郎さんの言葉に、私はゆっくりと杏寿郎さんの方へと振り向く。
杏寿郎さんの口から一体何が語られるのか不安になり、私の心臓はドクドクと大きく波打ち、心なしか息苦しさも感じた。
杏寿郎さんはそんな私の様子に気がついてくれたのか、私の両肩に依然として置いてある大きな手に、ぎゅっと痛くない程度の力を込めた。
「君に心無い言葉を浴びせた者たちがいると教えてくれたのは、胡蝶の継子だ」
「…え?」
杏寿郎さんの口から紡がれた意外すぎる事実に、私は目を丸くしながら一瞬固まってしまった。