第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「……」
一刻も早く左耳を回復させる為にも、その耳の治療に詳しいという医師の元へ行くのが1番なのかもしれない。けれどもそれを選ぶことは、大好きな人たちの側をまた去らなければならないことを意味する。
…そんなの…もう耐えられない
「すぐに答えを出さなくても構いません。今度はきちんと師範である宇髄さん…それからそこにいる煉獄さんと話し合って、ゆっくりと決めて下さい」
胡蝶様はそう言いながら私に柔らかな笑みを向けてくれた。その笑顔がまるで
"あなたの好きな方を選んでいいんですよ"
と言ってもらえているような気がして、選択を迫られ焦りを覚えていた心をフッと落ち着かせてくれた。更に、私の両肩に杏寿郎さんの大きくて温かな手が添えられ
「''どうするべきか"ではなく、"君がどうしたいか"を教えて欲しい」
私の顔を覗き込み、そんな言葉をかけてくれた。その優しさから、温もりから、離れる選択肢など選べるはずもなく
「…私…ここに…みんなの側に…いたいです…」
小さな声で呟くようにそう言った。すると
「うむ!是非ともそうしてくれ」
杏寿郎さんは、とても嬉しそうにそう言ってくれたのだった。
「決まったようですね。では、鈴音さんの耳は責任もって私が診させてもらいます。…いいですね?」
私の顔をじっと見つめ、最終確認をするように尋ねて来た胡蝶様に
「はいよろしくお願いします!」
「うむ!鈴音を頼んだ!」
私の言葉と杏寿郎さんの言葉が見事に重なった。思わず杏寿郎さんと目を見合わせいると
「あらあら。仲がよろしいようで何よりです」
胡蝶様がにっこりと意味ありげな笑みを浮かべながら言うものだから
「っそんなことありません!」
「やはりそうだろう!」
私は恥ずかしさから全力で否定の言葉を、一方杏寿郎さんは満面の笑みで肯定の言葉を述べた。
「…ふふふ」
そんな私達を、胡蝶様は右手で口を押さえ先程よりもさらに笑みを深めながら見ていたのだった。