第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「あの…杏寿郎さんは呼ばな「失礼する!鈴音の耳はどうだろうか!?」…」
…やっぱり、杏寿郎さんが大人しく待っててくれるわけがないか
"呼ばなくていい"と言い終わる前に勢いよく診察室の扉が開き、話題に上がっていた当の本人、杏寿郎さんが現れずんずんと診察室に入ってくる。その行動に呆れにも近い気持ちを抱きつつ、それ以上に嬉しく思えた。
「煉獄さん。何度もお伝えしたことがあると思いますがここは蝶屋敷です。そしてこの部屋は診察室です。不用意に扉を開けるのも、大声を出すのも控えて下さい」
胡蝶様の口調はとても穏やかではあったが、米神はピクピクと痙攣しており怒っている様子がはっきりと見てとれた。
「すまない。次回から気をつけよう。して、彼女の耳は如何だろうか?」
「まったく。悪いと思うのであればもっとそれらしい態度を取ってください。診察はこれからです。少し静かにしていて下さい。さ、鈴音さん、左耳をこちらに向けて頂けますか?」
私は言われた通り身体の向きを変え、左耳が胡蝶様の正面に来るように身体の向きを変えた。すると胡蝶様はどこからともなく細長い所謂懐中電灯のようなものを取り出し、パチンとその先っぽについている電気をつけ私の耳の中をじっくりと診ているようだった。
「珍しいものを持っているな」
「はい。似たようなもは元々持っていましたが、これは鈴音さんの診察に必要になると思い取り寄せました」
さらりとそう言った胡蝶様だったが
「…え!?そんな…私の為に…すみません…!」
態々私の為に取り寄せたと聞いた私は申し訳なさで一杯だった。
「あ、勘違いしないでください。確かに鈴音さんの診察をする為に取り寄せはしましたが、それはあくまでもただのきっかけですので。診察に必要な医療器具を取り寄せることは、ここで医師として働く私としては当然の行動です」
胡蝶様はそう言いながら私の耳の中を先程の電気で明るくし、ピンセットで広げながら観察しているようだった。