第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「…っ診せにくるようにと言われていたのに…あれっきりになってしまい申し訳ありませんでした」
そう言いながら頭を下げる私に
「…頭を下げる必要はありません。あなたの精神状態を見誤り、追い詰めるきっかけを作ってしまったのは主治医であったこの私です。私の方こそ配慮が行き届かず申し訳ありませんでした」
胡蝶様も同じように頭を下げて来た。
「…っそんな!やめてください!」
私が慌てて胡蝶様に近づきながらそう言うと、胡蝶様は下げていた頭をパッと上げ
「はい。お互いに謝罪はここまでにしましょう」
先程とは違い恐怖を微塵も感じない柔らかな笑みを私に向けてくれた。私はあまりにも急な態度の変化に戸惑い、思わず足を止めてしまう。
「私たちには意味の無い謝罪を繰り返す事以上に、すべき事があるでしょう?」
胡蝶様のその問いに
「…そう…ですね」
私は止めてしまった足を再び動かし、胡蝶様の前に用意してある椅子に腰掛けた。それから胡蝶様の大きな目をじっと見つめ
「今度は必ず胡蝶様の指示に従います。だからもう一度、わたしの耳を診て下さい」
とお願いをした。胡蝶様は私の言葉ににっこりと微笑むと
「もちろんです。早速ですが診察を始めましょう。けれどもその前に、煉獄さんをお呼びした方がよろしいのではないですか?」
そう言った。
「……」
診察室に入る前、杏寿郎さんに廊下で待っていて欲しいとお願いしたところ、ものすごく不満そうな視線を送られた事は記憶に新しい。私の口から説明するよりも、胡蝶様から直接の説明を聞いた方が二度手間にならないような気もする。けれども
…これ以上…杏寿郎さんを巻き込みたくない…
そう思ってしまう自分がいる。黙ったままなかなか答えない私の様子に
「どうか…されましたか?」
胡蝶様が、優しく尚且つゆっくりとそう尋ねてくれた。