第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
顔だけをチラリと杏寿郎さんの方へと傾けたが、グッと私の身体の側面に杏寿郎さんの左手が伸び結局は互いの身体が向き合うような姿勢へと変えられてしまう。すると私の顔のすぐ正面に、杏寿郎さんの端正な顔が現れた。
「……これじゃあ…近すぎて眠れません」
今日のあの一連の出来事と比べてしまえば顔の近さなどどうって事はない筈。けれども、私にはそんなことはなく、狭い布団で必然的に身体は密着し、視界が杏寿郎さんの顔だけで埋め尽くされてしまうような距離感になってしまえば、恥ずかしさを隠す為と素直じゃない私がヒョッコリと顔を出してしまう。
「そのうち慣れる」
杏寿郎さんはそんな私に向け余裕の笑みを浮かべた。それから私の耳たぶに優しく触れると
「今日、胡蝶になぜ君も一緒に連れてこなかったと叱られた」
杏寿郎さんは真剣な面持ちでそう言った。
「え?」
急に出てきた胡蝶様の名前に戸惑うも
「実は手紙を送った際は鈴音に関して特に触れていなかった。倫太郎殿を胡蝶のところに連れて行った際、話の流れで君の名前を出した」
杏寿郎さんは私の耳たぶをフニフニと弄りながら話し続けている。
……杏寿郎さん、何が言いたいんだろう?
そんなことを考えながら話の続きを待っていたが
「君のことを酷く怒っていたぞ」
さらりと述べられた杏寿郎さんの言葉に、私は衝撃を受けた。
「…怒ってる…?…胡蝶様が…私を…?」
…なんで?……怒られるようなことした覚えは…ないんだけど…
そう思いながら杏寿郎さんに尋ねるも
「うむ!明日、ここを出たらまずは蝶屋敷に向かう。今のうちに叱られる準備をしておくといい」
杏寿郎さんがわざわざそんな嘘を吐くはずもなく、胡蝶様が私に怒っているというのは本当のことのようだ。
…あの胡蝶様に叱られる…?…やだ……怖いんだけど
一体何を言われるんだろうかと思考を巡らせていると、杏寿郎さんの腕に、頭を優しく包み込まれるように抱き寄せられた。