第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「胡蝶は、君の耳は然るべき治療を受ければ治る可能性があると言っていた」
「……え…?」
思ってもみなかった杏寿郎さんの言葉に、私は杏寿郎さんの顔に埋めていた顔を慌てて上げた。
「…うむ。やはり鈴音は胡蝶の言う通り、胡蝶の話をきちんと聞けていなかったようだな」
杏寿郎さんは僅かに怒ったような声色でそう言った。けれども私の頭は
"治療を受ければ治る可能性がある"
その言葉でいっぱいで、他のことを考える余裕はなかった。
…私の耳…やっぱり良くなってたんだ……というか…治療を受ければ治る可能性があるなんて…そんな事…胡蝶様…言ってたっけ……?
胡蝶様と交わしたやり取りを懸命に思い出してみようとするも、どうしても断片的にしか思い出すことが出来ず、しかもその断片的な部分は私にとって良くない事ばかりだった。
杏寿郎さんに私の酷く混乱した様子が伝わっていたようで
「胡蝶が言っていたが、最後に鈴音と話をした際、鈴音
は酷くショックを受けた様子に見えていたと言っていた。それ故第三者にも話を聞いてもらおうとしたが、君はそれを断ったそうだな」
杏寿郎さんは、あの日私と胡蝶様の間でどのようなやり取りがあったのかを把握しているようで、私が混乱しないように、尚且つ言い聞かせるようにゆっくりと話をしてくれているようだった。
「……確かに…その通りです」
そのやり取りはきちんと覚えていたし、自分が何故天元さんを呼ばないでほしいと胡蝶様に言ったかも覚えている。
「胡蝶はあの時、無理にでも宇髄か俺を呼ぶべきだったと後悔していた。自分が医師として、君の精神状態をきちんと把握してさえすれば、鈴音があんな行動を取らずに済んだかもしれないと、そう言っていた」
「…っそんな!胡蝶様は何も悪くありません!私は…私は…っ…」
胡蝶様の説明をきちんと聞かず、その気遣いを無下にしたのは他でもない私自身だ。それなのに、胡蝶様をそんな風に思わせてしまっていたのかと思うと、申し訳なさで胸が苦しくなった。