第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
そうして過ごしている内にあっという間に閉店の時間がやってきた。
お店を閉め、裏で片付けをしていると
「ただいま戻った!」
杏寿郎さんの建物全体を揺らしそうなほどの大きな声が店の玄関の方から聞こえ、しずこさんが持ってたザルを半ばぶん投げながら玄関の方へと駆け足で去っていった。私もカラカラと音を立て転がっているザルを急いで拾い、洗い場の水の中にそれを入れるとしずこさんの後を追った。
「…よかった…よかったよぉ…」
辿り着いたその先では
「すまん…心配かけたな…」
しずこさんと倫太郎さんが、互いの身体をしっかりと抱きしめ合いながら泣いていた。
…やっぱり鬼の仕業だったんだ……よかった
"よかった"なんて言葉は相応しくないのかもしれない。けれども、倫太郎さんの体調不良の原因が鬼が原因とするものだったからこそ、胡蝶様に診てもらった今日の今日でふらつきながらも1人で歩くことが出来ているに違いない。
私は、しずこさんと倫太郎さんの姿を少し離れた場所から見守っている杏寿郎さんの元へ、二人の邪魔にならないようにと気をつけながら近づいた。
杏寿郎さんの左側に立った私は、杏寿郎さんの耳にだけ届く声量で
「お疲れ様でした」
杏寿郎さんに言った。すると杏寿郎さんは私の肩にグッとその長い左腕を伸ばし、杏寿郎さんの正面に来るように私の身を移動させた。そして私の両肩に、暖かな温もりを感じる両手を置くと
「2人のあのような姿が見られたんだ…造作もないこと」
2人の邪魔にならないように気を遣ってくれたのか、声量を抑えながらそう言った。
「…2人とも…本当に嬉しそう」
「そうだな」
「……杏寿郎さん」
「なんだ?」
「2人をあんな風に笑顔にしてくれてありがとう」
「礼を言われるほどのことはしていない。俺はただ俺のしたいようにしたまでだ」
杏寿郎さんはそう言うと、私の肩に置いていた手を離し、後ろから私の身体をギュッと抱きしめてくれた。