第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
ガラリと扉を開けると
「おはよう!いい朝だな」
いつも通り、口角を僅かに上げた杏寿郎さんがそこに立っていた。
「おはようございます。いい朝ですね……と、言いたいところですが、今何時だと思ってるんです?いくらなんでも来るのが早すぎです。ご近所迷惑ですし、もう少し声を抑えてください」
しずこさんに泊まっていくように言われた杏寿郎さんだったが、念のため近くの宿を抑えてあったらしく杏寿郎さんは昨日はそこでひと晩を過ごした。
そしてまだ街が眠りから覚めている途中の今…眠気を吹っ飛ばしてしまいそうな快活な声を伴い、杏寿郎さんが現れたと言うわけだ。
「わはは!すまない!君に会えると思うとおちおち布団で寝ていられなくてな!怒られるだろうとは思っていたが来てしまった」
そう言って満面の笑みを浮かべる杏寿郎さんに
…やだ…嬉しい
不覚にも、私の胸は大きく高鳴り
「…そう…ですか…」
頬がポッと熱を帯び、恥ずかしさから視線を斜め下に向けてしまう。そんな私に杏寿郎さんはグッと鼻がくっついてしまいそうなほど顔を寄せ
「うむ!…可愛らしい」
そう言って、眉を下げ今度は優しく微笑んだ。
「…恥ずかしから…やめて下さい…」
早朝から聞くにしては些か甘すぎる言葉のような気がし、嬉しくてたまらないのにも関わらずそんなことを言ってしまう。そんな私は、相変わらず素直からは程遠いが
私も…杏寿郎さんへの好きを…これから少しずつ…うぅん…たくさん…伝えて行けたらいいな
と、思わずにはいられなかった。
それから杏寿郎さんとしずこさんと3人で朝餉を取り、杏寿郎さんに背負られ、胡蝶様の元へと向かう倫太郎さんを見送った。その際の倫太郎さんの表情は不安の色を隠せないそれではあったが、しずこさんをじっと見ながら"……いってくるな"と、呟いた言葉に確かな意思のようなものを感じることができた。
その後は
"…ただ待ってるだけじゃ…落ち着かないからね"
と言うしずこさんの希望でいつも通りに店を営業した。