第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
私は再び立ち上がり、今度は杏寿郎さんの隣に拳一つ分間を開け腰掛ける。
「…きっと…よくなりますよね…?」
杏寿郎さんはそう尋ねた私の腰に腕を回しグッと強く引き寄せると、私と杏寿郎さんの間にあった隙間をあっという間に無くしてしまった。
「うむ!君もよく知っての通り、胡蝶の腕は確かだ。必ず良くなる!」
杏寿郎さんがそう言うなら…きっと間違いない…よね
「…はい」
私は杏寿郎さんの左腕に、すりすりと頭をすり合わせ、その確かな暖かさに心が安らいだのだった。
杏寿郎さんは胡蝶様へと急いで文を書き、それを書き終えるとすぐに鴉の足に文をくくりつけ飛ばした。
するとその後、杏寿郎さんとしずこさんと私の3人で夕餉を取っている間に、胡蝶様から
"明日その男性をこちらまで連れてきてください"
と、返事が来た。
まだ何かわかった訳じゃないと言うのに
あぁ…これでまたしずこさんと倫太郎さん、ふたりでお店に立てるようになるんだ
そんな安心感が私の胸を包み、杏寿郎さんとしずこさんが話している姿を見ているだけでジワリと目の奥が熱くなってきてしまうのであった。
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夜があけ、空が白み始めた頃。
「おはようございます!」
杏寿郎さんのその大声で、私は気持ちのいい眠りの世界から強制的に引っ張り上げられた。
こんなに穏やかな気持ちで目が覚めるの…いつぶりだろう
そう思いながら起き上がり、窓を開け、外を見ると、もう間もなく太陽が完全に顔を出しそうな所だった。
「いくらなんでも…早すぎでしょう」
嬉しさ半分呆れ半分でそう言いながら、布団のそばに置いておいた羽織…罪悪感でずっと仕舞い込んでいた宝物の羽織を肩にかけ、私は店の玄関先へと向かった。