第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
絶望したようにそう話すしずこさんの一方で、私と杏寿郎さんは確かな希望の光を見出していた。
「しずこさん。大丈夫です。倫太郎さんは…きっと治ります」
しずこさんは私の言葉にパッと顔を上げ
「…治るの…かい…?」
ひどく驚いた表情を見せた。
「うむ!ご主人が言っている"鬼"を俺たちは嫌と言うほどよく知っている。ご主人は気が触れたりなどしていない」
杏寿郎さんの言葉に、しずこさんは首を少し動かし私から杏寿郎さんの方へと視線をずらす。
「…本当…かい…?」
「はい。本当です。ここにいる杏寿郎さんは…そして今はもう辞めてしまいましたが私も、人を苦しめる鬼を狩る仕事をしていました」
「…鬼を…狩る?鬼は…本当にいるのかい…?」
しずこさんは口を手で覆い、目を丸くし驚いている。
「鬼はいます。ご主人の身体には鬼の毒か、もしくは鬼が使う術の影響が残っているに違いない」
「鬼の…術に……毒…」
「俺の仲間にはそれを治療することを専門とする者もいる。こちらに来てもらってもいいが…恐らく俺が背負ってご主人を連れて行った方が早い!夜が明け次第、ご主人をそこへ連れて行っても構わないでしょうか?」
杏寿郎さんの言葉を聞いたしずこさんは、私の方に顔を向け
「…あの人…治るのかい…?」
目に涙を浮かべ、声を震わせながらそう尋ねてきた。立ち上がり、しずこさんの隣まで移動した私は、そこに腰掛けその左手を両手で包み込む。
「…っ治ります!きっと胡蝶様なら…すぐにでも解毒薬や血鬼止めを調合してくれます!杏寿郎さんに…私たちにどうか倫太郎さんを任せてください」
「………」
しずこさんは少し考えるそぶりを見せた後
「…っ鈴音ちゃんがそう言うんだ…あの人のこと、どうかよろしく頼むよ…っ!」
そう言って、私の手を力強く握り返してくれた。
「はい!」
「よし!そうと決まればすぐに文を飛ばそう!すまないが紙と筆をお借り出来ないでしょうか?」
「あぁ!もちろんいいさ!」
しずこさんは勢いよく立ち上がると、奥の部屋へ、紙と筆を取りに行った。