第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「……っ!!!!」
かぁぁあっ
と、その言葉に私の頬に一気に熱が集まってしまった。
「さて、ふざけるのはこの辺にして。もう日も落ち始めて危ないから、あんた達2人とも中に入りな」
「はい」
「それでは、失礼します!」
私と杏寿郎さんは、しずこさんの後に続き建物のお店部分を通り抜け、居間へと向かった。
居間に通された杏寿郎さんと私は、ちゃぶ台をしずこさんと3人で囲み座った。
「美味い!」
「そりゃあよかった。それはねぇ、その子が作った餡なんだよ」
「なんと!鈴音が作ったものか!通りで今まで食べた餡の中で格段に美味いわけだ!」
「…そんな…大袈裟な…」
「ははっ!お熱いことを言う人だねぇ」
明日使う分の餡を杏寿郎さんの為に出してくれたのか、杏寿郎さんはしずこさんが入れてくれたお茶を片手に、餡子のおはぎをそれはもう嬉しそうに咀嚼していた。
和やかな雰囲気を壊してしまうのは嫌だった。けれども
「しずこさん…ごめんなさい。私…この人のところに…本来いるべき場所に……帰ります」
私はきちんと話さなければならない。
しずこさんは、嬉しそうな、それでいて悲し気な笑みを浮かべ
「そうかい。…それがいいよ」
そう言った。その表情が、私の胸をぎゅっと、苦しいほどに締め付ける。
「…っ…こんな得体の知らない人間を受け入れてくれてたのに…恩を仇で返すようなことを言って…ごめんなさい」
あの日、行き場を失った私を救ってくれたのはしずこさんだった。しずこさんが何も聞かずに私を受け入れてくれたから、必要としてくれたから、私は完全に自分を見失うことなく、こうして杏寿郎さんの隣にいられるようになったと言っても過言ではない。
「謝ることなんてないんだよ。鈴音ちゃんが来てくれたおかげで、予定よりも長く店を続けることが出来たんだ。こっちがお礼を言うことがあっても、謝られることなんて一つもない。…短い間だったけど…娘が出来たみたいで本当に楽しかった…ありがとうね」
「…っ…しずこさん」
その言葉が嬉しくて、けれども申し訳なくて、私はちゃぶ台の下で両手に拳を作りギュッと硬く握りしめた。