第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
ことの最中、私は終始あられもない声をあげ続けていた。あの声がこの部屋から漏れていないとは到底思えない。あんな声を出しまくって、どんな顔をして下の階に行けば良いのか。いやむしろ、顔を見られるようなことがあれば羞恥で倒れてしまいそうだ。
「…っ…あの…私…声…すごかったですよ…ね…?」
「そうだな!」
間髪入れずに答えた杏寿郎さんに
「…ですよね」
私はがっくりと肩を落とし項垂れた。けれども
「だが心配ない」
杏寿郎さんのその言葉に、私はパッと顔を上げ杏寿郎さんの顔を見る。
「心配ないって…どうしてです?」
杏寿郎さんは口角をきゅっとあげその顔に軽く笑みを浮かべると
「こんなこともあろうかと、店主には人払いを頼んである。金を多めに渡し、出来れば店主も含め、従業員も外してもらえるよう頼んだ。だから君の大きな喘ぎ声を聞いたのは俺だけのはずだ」
「……そう…なん…ですか?」
「うむ!」
…成る程…だから杏寿郎さんは自分で蕎麦を持ってきたのか…
ようやくあの行動に合点がいった。
…一体いくら渡したんだろう…というか…誰のせいで…あんな声を出す羽目になったと思ってるわけ…
半ば八つ当たりにも近い感情を抱きながら杏寿郎さんをじっと見ていると
「どうかしたか?」
立ち上がり、身に纏っている着流しを整えながら杏寿郎さんが首を傾げた。
…どうかしたかじゃないし…
そう思いながら恨めしげに杏寿郎さんを見るも、杏寿郎さんの機転のおかげで、杏寿郎さん以外には絶対に聞かれたくない私のあられもない声を聞かれずに済んだ。
なによりもあんな風にされなければ、きっと私は素直になることなんて出来なかったに違いない。
「…なんでも…ありません」
「そうは見えないがな!…まぁいい!」
杏寿郎さんは笑みを浮かべそう言った後、その表情をフッと真剣なものへと変えた。