第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「…杏寿郎さんの側に…いさせて…下さい…っ」
杏寿郎さんに、身体をこれでもかと言うほど寄せながらそう言う私に
「もちろんだ!だが君をこうして迎えに来るのはこれが最初で最後。もう二度と、何も言わずにいなくなったりしないで欲しい。俺は鈴音のことを好いてはいるが、嘘をつくこと、約束を破ることは好きではない」
杏寿郎さんは真剣な声色でそう言った。
「…はい…もう絶対に…しない…約束します」
「うむ!もしまた悩み迷うことがあったら、一人で結論を出さず俺に必ず言うんだ。君が安心できるよう、俺は何度でも君が好きだ、ただ側にいて欲しいと伝え続けよう」
杏寿郎さんはそう言うと私の身体から右腕だけを外し、ほんの少し身体を離した。そして、そのまま右手で私の顎を掴むと、鋭く、なのに優しい隻眼で私のそれをじっと覗き込み
ちぅ
口付けを落としてくれた。
こんなにも素敵な人に好きだって言ってもらえて…側にいて欲しいって言われて…私…なんて幸せ者なんだろう
今までの人生において、こんなにも安らげて、安心できたことは初めてのことだった。
いつの間にか、私の左目からつーっと一筋の涙がこぼれ落ちていた。けれどもその涙は酷く暖かくて、涙を溢し泣いているのにも関わらず、信じられないほど心地がよかった。
それから杏寿郎さんは、まるで私の存在を確かめるかのように、私の身体をぎゅっと強めに抱きしめた後
「名残惜しがそろそろ出るとしよう。あの女性も、恐らく君のことを心配している」
言葉の通りとても名残惜しげに私の身体をその身から離した。
…とうとうこの時が来てしまった…どうしよう…!
この店から出る為には、一階に降り店内を通り抜け出入り口に向かわなければならない。それはつまり、ここで働く方々やお客のいる場所を通らなければならないということだ。