第2章 脱兎の如く
いつも自分か、もしくはたまに中でのほほんと休憩をしている和の気配しか感じないはずなのに、今は何かもっと小さな別の動物の気配を感じる気がした。ただその小さな動物の気配も、”ただの野生動物”とは明らかに違う変わったもので
振り向くのが怖い
と思いながらも、私はそちらに向けゆっくりと顔を動かした。
顔を向けたその先にいたのは、
「…ネズ…ミ……え???…ちが…なに…???」
確かにその2匹は、”ネズミ”と呼んでいいそれには見えるのだが、明らかに私の知っている、その辺で見るネズミとは違う。
待って待って。なんか…やけにムキムキしてない?ネズミってそんなに筋肉必要ないでしょう。って言うか、なんで二足歩行なわけ?なんでズボンはいてるわけ?頭になんか派手なもの付けてるし。あ。そうか。幻か。最近、なんか気持ち的に疲れを感じる出来事が多かったし…そっか。そうだよね。幻に決まってる。どこの世界にあんな妙ちくりんなネズミが存在するっていうのよ。
「…きっと、疲れてるんだ。…今日は、もう寝よう」
まるで自分に言い聞かせるようにそう口に出し、疲れて出しっぱなしにしてあった布団にゴロリと横になった。
「…ふぅ」
浅くため息を吐きながら目をつぶり、眠りの世界へ旅立とうと、心を落ち着ける。
…ねぇでも待って。幻から、気配も音も感じるはずない。
閉じていた目をパッと開け、先ほどネズミの幻が見えた場所に再度視線を向けた。
やっぱりまだいるー!!!幻なんかじゃないー!!!
「…っなご…和ぃ!和ちゃぁぁぁあん!!」
私の叫ぶような呼び声を聞きつけてくれたのか、窓戸を嘴で器用に開けた和がピョンっと部屋の中に降り立つ。
そのままピョンピョンと跳ねながら私の元までやって来ると、
「どうしたの~?」
といつもの抜けた口調で尋ねて来る。私は思わず、その小さな体を胸に抱き込み
「っネズミが!二足歩行でズボンを履いたムキムキなネズミがぁ!そこに2匹もいるのぉぉお!」
私が半泣きで、和にそう訴えかけると
「ムキムキなネズミ?あぁ~。虹丸様のところのねぇ~」
さも当然のようにその珍妙極まりない存在を認識し、まるで既に知った存在かのように言ってのけた。