第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
…あんな風にいなくなった私を、どうしてまだ好きと言ってくれるの?どうして…こんなところまで追いかけて来てくれるの…?
私を抱きしめる腕の力がとても嬉しくて
「…離してください」
それと同じくらい辛かった。
「…驚いた…あれだけ俺のことを好きだと言っておいて…またもや振り出しに戻ってしまった」
杏寿郎さんの声色は、その言葉の通り酷く驚きを含んだそれだった。
私だって本当は杏寿郎さんの側にいたい。理性を失い、本能がむき出しになってしまった私の言葉に、嘘偽りなど一つもなかった。
…でも私は…杏寿郎さんに…相応しくない
こんなにも杏寿郎さんが好きなのに、今はこんなにも杏寿郎さんが近くにいるのに、それでも伝えてはならない、受け入れてはならない"好き"という気持ちに、胸が押しつぶされてしまいそうだった。
「先程君は、俺が好きだと言っていただろう?なのになぜ逃げようとする?何がそんなに気に入らない?」
「…っ気に入らないとか…そんなんじゃありません…」
「ではなぜだ?約束通り2人共に生き残ったと言うのに、君の鴉は来ても、君自身は待てど暮らせど現れない。現れないどころか気づいた時には除隊届だけを残し行方知れずときた」
杏寿郎さんの言葉尻がどんどん強くなり、それに伴うように私を抱きしめる力も強くなって行く。
「…っ…苦し…」
「俺がどれだけ驚いたかわかるか?納得できるように、きちんと君の口から説明して欲しい」
怒気を隠すことなく私に向けてくる杏寿郎さんに、そんな資格もないのにじわりと涙が迫り上がってきてしまう。
「…だって…」
「だってなんだ?」
「私は…もう…あなたの役に立てない…隣に…いる資格が…ない…」
「またその話か?相応しいだとか役に立つだとか資格だとか…君はなぜまたその話を掘り返す?」
「…だって…あの時とは…状況が…違うから…」
自分でも知らぬ間にボロボロと泣いており、振り向いて、杏寿郎さんのその厚い胸板に顔を埋めたかった。