第2章 脱兎の如く
その後、気晴らしに小間物屋でちょっとしたお買い物をし、長屋へと戻った。玄関を開け
「ただいまぁ」
と誰もいないのとわかっていても毎回言ってしまうのはじいちゃんと善逸と一緒に過ごしていた頃の癖のようなものだ。
何かが…今朝と違う気がする。
部屋に入るなりそんな違和感を感じ、耳に神経を集中させ部屋の音を聴いた。
…窓戸だ。窓戸のあたりの音が今朝と違う。…と言うことは。
私は部屋の隅に位置している箪笥へと向かい、その上に設置しておいた文置き場へと視線を向けた。するとそこには
「やっぱり!じいちゃんからの返事が来てる!」
和の嘴の跡がくっきりとついた封筒が置かれていた。
和はいつもじいちゃんや善逸からの文を預かってきたとき、こうして窓戸を自ら開け、箪笥の上にそれを置き、そして部屋を出ていく。
「…気が利くというか人間らしいというか…鎹鴉ってどうやって育ててるんだろう」
そんな独り言をこぼしながら、文を手に取り、座る時間ももったいないとその場で封筒をピリピリと丁寧に破いた。中から便箋を取り出すと、そこには少し懐かしくも感じてしまうじいちゃんの文字でびっしりと埋められていた。
「…っふふ…相変わらず文字数多すぎ」
そんな風に笑いながらも、心は温かく幸せな気持ちで満たされていた。
文の一番最初には、いつも通り私を労い、褒める言葉が綴られていた。けれどもその後に続けて書かれていた事はいつもの内容とは異なっており、
「…っうそ!」
そこには”善逸が最終選別を無事突破した”と書かれていた。よく見てみると、いつもは便箋1枚にぎっちりで収まっているはずが、そこに2枚目があることに気が付く。もしやと思い、1枚目と2枚目を入れ替えて見ると
怖い!俺なんてすぐに死んじゃう!だから俺を迎えに来て!
と、善逸の文字で、でかでかとその3文だけが綴られた内容の手紙であった。
「…また馬鹿なこと言って。そんな暇、あるわけないでしょ」
そう言いながらも、私はそのなんとも善逸らしい言葉に笑いってしまった。入れ替えた便箋を再びもとに戻し、先ほど目を通した箇所に再び戻る。その先に綴られていた内容に私は思わず
「…っ!」
息をするのを忘れてしまった。