第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「っすみません…つい…倫太郎さんの餡を好きでわざわざ来るなんて…どんな人か気になって」
「おうおうそうかい。鈴音ちゃんすっかり倫太郎としずちゃん家の子になったねぇ…おじさんは嬉しいよ」
そう言ってもらえるのは私としても嬉しかったのだが、今はそれ以上にそのみたらし団子を買いに来たという人物が気になって仕方がない。
早く教えてよぉ…
じっとおじさんを見つめ、無言で訴えかけていると
「…あぁ悪い悪い。どんな人だったかだね。えっと…」
おじさんは顎に手を当て、うぅん…と唸りながら宙を仰ぎ見ている。その様子に、おじさんの頭上にもわもわとその男性が浮かび上がっている様が想像できた。
「うぅん…そんな特徴のある見た目ではなかったんだけど…あ、そうそう!眠たそうな目をしている男だった!」
「…眠たそうな目をした男…?」
頭の中の引き出しを次々と開け、自分の脳内にそれに該当する人物がいないか考えてみる。
…眠たそうな目をした隊士…そんな人…いた?…いやでも…隊士とは限らない…隠っていう可能性も…あるかもしれない
そう思い、顔見知りの男性隠の姿を思い浮かべてみるも、顔、声、名前が一致するのは素顔を見たことのある苗場さんしか思い浮かんでこなかった。
…だめだ…わからない…諦めるしかないか…
そう思ったその時
「そいつ、15分くらいに前に街を出てったよ。すぐそこの門からね」
おじさんがさらりと言った。
「え!?本当!?…っあの!すぐに戻って来るんで、この黄な粉、預かっててください!」
「んえっ!?」
私は受け取ったばかりの黄な粉をおじさんにつき返すように渡し、返事もまともに聞かないまま、眠たそうな目をした男が出ていったという街の門へと向かった。
「…響の呼吸参ノ型…音響明知」
この街は門を出るとすぐに森に入る。道は意図的に逸れない限りは1本。私は呼吸で周辺の気配を探りながら、その男に追いつかんと駆けだした。