第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
背中に日輪刀を隠し(小さな日輪刀でよかったと心から思った)、右耳と、本当に僅かだが音を取り戻した左耳で音を聴きながら街を歩き回る。すると、珍しく私が外を歩いている様子に、お店の常連さんや、しずこさんのお友達が
”あれ!?鈴音ちゃんどうしたん!?”
と驚かれてしまった。話しかけられてしまえば会話しないわけにもいかず、人の声を拾って歩くどころの話ではなくなってしまった。
そして気が付くと、なんの収穫もないまま目的の店の前に立っていた。
…これじゃあ全然意味ないし…こんなことなら屋根伝いにこっそりと来ればよかった
そんなことを考えながら意味もなく店の前で立ち止まっていると
「今日は随分と繁盛してたみたいだねぇ。りえちゃんが里帰りしてるときに大変だったね」
店主である恰幅のいいおじさんが店の奥から出てきた。
「はい…流石に疲れました」
そんな会話を交わしながらも、目的の黄な粉が置いてある棚へと向かう。
よかった…あった
棚には3つの黄な粉が陳列されており、そのうちの2つを手に取り会計台にいるおじさんのところへ持っていく。
「黄な粉、2袋お願いします」
「まいどあり。包むからちょっと待ってな」
おじさんはそう言いながら私の手から受け取った黄な粉を手早く包んでいく。そしてあっという間に2つ一緒に包み終えると
「おまちどうさん」
私に向けすっと差し出してきた。それと交換するように代金を差し出すと
「そういや今日、倫太郎のみたらし団子を遠くから買いに来たっていう客がうちに道を聞きに来たよ。やっぱりあの餡の配合っていうんかねぇ?あれを生み出した倫太郎は団子界の星だよ」
なんて半ばふざけたような物言いでおじさんがそう言ってきた。その言葉に
「…っそれってどんな人でした!?」
思わず身を乗り出すように尋ねてしまう。
「おぉっ!?何々、そんなに食いついてくるなんておじさんびっくりなんだけど」
おじさんは言葉の通り、とても驚いた表情を浮かべながら私が乗り出した分を仰け反った。