第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「…しずこさん」
「なんだい」
「帰ってきたら片づけの続きはまたやりますので、買い付けがてら少しその辺を散歩して来てもいいですか?」
「散歩?普段はあんまり出かけたがらないのに珍しいこと言うね」
「…ちょっと気分転換したくなって」
本当は気分転換をしたいわけじゃない。黄な粉を買うお店はこの街の出入り口に近いところにある。そこへ行きながら今の耳でできる範囲の音を聴いて回れば、その声の持ち主を見つけられるかもしれない…と、思った。
「別に構いやしないよ!いっつも頑張ってんだから、たまにはのんびりしてきな」
「ありがとうございます。それじゃあ…売り切れてしまったら大変だから、先に行ってきちゃいますね」
「はいよ。気を付けてね」
「行ってきます」
手に持っていた台布巾を手放し、しずこさんから黄な粉を買い付けるようのお金を受け取ると店の外に出た。そのまま目的の店に向かう…のではなく、店の裏側へとまわり念のため左右を確認する。
…よし
それから
ダッ
高く跳躍し、自分が使わせてもらっている部屋の窓から中へと泥棒のごとく侵入した。一旦部屋に戻ってきた理由。それは
…念の為…ね
私の愛刀を取りに来るためだ。
しずこさんの言葉の通り、私がこの店に住み込みで働かせてもらうようになり、買い付け以外で街に出歩くことは初めてのことだった。蝶屋敷、音柱邸、そして杏寿郎さんの家からなるべく遠いところを目指して駆けてきたとはいえ、どこに鬼殺隊と関係のある人がいるかわからない。
そして今回のように、もしかしたらと思うような人と会ってしまうかもわからない。それを避けるために、極力出歩くことをしなかった。。けれども今日、私”は聴いたことのあるかもしれない声の持ち主”と間違いなく遭遇してしまっている。私はその人物の顔を見ることが出来なかったが、相手が私の顔を見ている可能性は高い。
冷静に考えればその人物が誰であろうと、隊を除隊した私には関係なく、気にする必要なんてない。それでも、どうしてもその人物が一体どんな人物なのか…知りたくて堪らなかった。