第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
2日目。
2日目も初日と同様基本的には問題なく仕込み、裏方、そして接客をこなすことが出来た。けれどもなぜかその日は異様にお客さんが多く、ここへきて初てめ”疲れ”というものを感じた。しずこさんに理由を聞いたが、しずこさんも”たまにこんな日があるんだよねぇ…”と疲れた顔で言うだけで特段理由はないらしい。
お客さんがたくさん来るということは、しずこさんと倫太郎さんのお店が繁盛している証拠なのだからそれはまぁいい。けれども、お店を閉め、片づけている私の頭の中は、今日、接客していた際に聴いたひとりの男性の声でいっぱいになっていた。
…あの声…聴いたことがある気がする…
その声の主が店内にいたときは今日最も忙しい時間だった。なので声の主の顔を確認することが出来ず、どうしても顔と声が一致しない。そもそも充分に聴けなかった為、その声が、本当に聞いたことのあるそれかどうかも自信がない。
でも…さすがに鬼殺隊の関係者だったら…声を掛けてくると思うんだよね…
うぬぼれに聞こえるかもしれないが、私はこれでも柱の継子として他の隊士に認知されていた。だから顔を知られていない…ということはあまりないと思う。
あの列車の任務に就く前は小隊の隊長を務める機会も多かったため、その小隊の面子にいた誰かなのかもしれない。けれども1度しか任務を共にしなかった人も沢山いるため、やはりこれという人物は浮かんでこない。隊服を身にまとっていればすぐに分かったかもしれないが、今日接客した人間の中にあの特徴的な詰襟の黒服を着ている人間はいなかった。
…気のせい…だったのかもしれない…
そう結論付け、店の片づけに専念しよう台布巾を動かす手に集中しようとした。そのとき
「鈴音ちゃん。今日の営業で思った以上に黄な粉をつかっちまってさ。いつもの店に行って買ってきてくれないかい?」
裏から出てきたしずこさんが申し訳なさそうな声色でそう言った。
「黄な粉のおはぎと黄な粉のお団子がよく出ましたからね。わかりました」
…えっと…あのお店に行くのには…
そんなことを考えているときにふと
”もしかしたらさっきの声の主がまだいるかもしれない”
そんな考えが頭に浮かんできた。