第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「本当かい!?恩にきるよ!」
私の答えを聞いたしずこさんは、嬉しそうに笑ってくれた。
「あ、でもいつも通り仕込みもお願いしたいんだけど…大丈夫かい?」
「はい。もちろん任せてください」
その笑顔が嬉しくて、私もつられて笑顔になってしまう。そんな私の様子を見ていたしずこさんは
「本当に頼りになるねぇ。鈴音ちゃんはもう私の娘みたいなもんだし…あの人が良くなっても、ずっとここにいてもらいたいくらいだよ…」
そう言ったしずこさんの顔は、本当にそう思ってくれていることがよく伝わってくるそれだった。
"娘みたいなもんだよ"
まさかそんな風に言ってもらえるとは夢にも思っておらず
「…っ…ありがとう…ございます」
言葉につまり、目の奥がジワリと熱くなる。
…こんなどうしようもない私でも…必要としてくれる人が…いるんだ…
凍りついた心を包み込んでくれるようなしずこさんの優しさが、私の心を少しだけ温かくしてくれたような気がした。
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裏方の仕事に加え、接客の仕事も頼まれた1日目。接客の仕事が加わり、普段よりも忙しさのようなものを感じはしたが、余計なことを考える時間がなくなることはむしろ都合がよかった。
聴こえる方の右耳を使い、お客さんの状況を把握しながら裏方の仕事をしていると、とても円滑に仕事をすることができた。そしてこの時気がついたのだが
…左耳…少しだけだけど…聞こえるようになった…?
"聴く"ことはやはり出来ないのだが、僅かにだが左耳で音が聞こえるようになっていた。けれとも"気のせいかな?"と思ってしまうほどの小さな変化で、左耳の状況がよくなっている、という確信が持てるようなそれではなかった。
そんなことを考えながら裏方の仕事、接客、そして片付けをしているとあっという間に1日が終わってしまった。