第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「この店がなくなっちまうまではあんたんところの美味しい小豆、いっぱい買わせてもらうからね!」
おどけたようにそう言ったしずこさんに
「やだよぉしずちゃん!縁起でもないこと言わない!あんたなら例え1人でもやっていけるさ!鈴音ちゃんもいるだろう!?」
小豆屋さんのそんな言葉に
…そうだよ…私…しずこさんの為に…たくさん頑張るよ
自分の存在意義のようなものがそこにあるような気がしてならなかった。
店内に入っていくのはなんだか憚れ、私は身体の向きをくるりと変え、店の外から回って物置へ向かうことにしたのだった。
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逃げるように鬼殺隊を辞めてから半月程が経過していた。
私はすっかり鬼殺隊士荒山鈴音から、甘味屋の従業員荒山鈴音の姿が板につくようになった。
好物のお団子を自らの手で作り、それを美味しいと誰かが食べ、中には食べながらその顔に笑顔を浮かべてくれる。そんな姿をこっそりと暖簾の隙間から覗き見る事が好きだった。
私は必要とされてる
私はここにいてもいいんだ
そんな風に思えたから。
いつの間にかしずこさん、そして忙しい時間帯に接客を請け負ってくれているご近所のりえさんと3人で仕事をすることが、心から好きになっていた。
それでも
善逸
天元さん
雛鶴さん
まきをさん
須磨さん
みんなのことを思い出さない日は、1日たりともなかった。
会いたくて、寂しくて、恋しくて仕方がない。けれども、あんな去り方をして、誰も私のことを許してくれる筈がなく、懸命にその気持ちから目を背けた。みんな
"なんて自分勝手な奴なんだ"
と、私に怒りや呆れの感情を抱いているに違いない。私自身も、毎日自分自身にそう思っている。そして
…杏寿郎さん
その声に、瞳に、温もりに恋焦がれない日はない。
会いたい
日を重ねるごとにその感情も大きくなっていった。そしてその感情が胸を覆い尽くしそうになるたびに
そんなことが許される筈ないだろう
身の程を弁えろ
逃げたのはお前だろう
心の中のドス黒い何かが、私を現実へと引き戻した。