第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
そんな話をしていると
「しずちゃん。注文もらってた分の小豆、店先まで持って来たよ」
この店に小豆を売りに来てくれる近くのお店のおばさんがやってきた。
「ありがとさん。鈴音ちゃん悪いんだけど、それは私が変わるから、小豆、物置に持ってってもらっていいかい?」
「はい。わかりました」
「…いっつも思うけど嬢ちゃんのそのちっこい身体の何処にそんな力があるんだかねぇ」
首を傾げながら私の頭からつま先まで観察するように見ている小豆屋さんのおばちゃんに
「生まれつき力持ちなんです」
曖昧な笑みを浮かべながら適当な返事をし、店先の方へと足を進めた。玄関から外に出て、小豆の入っている大きな麻袋を手に取る。建物の周りをグルリと回って物置に行くこともできるが、近道をしようと店の中に戻ろうとしたその時
「いい子が来てくれてよかったねぇ」
小豆屋さんのそんな言葉が聞こえピタリと足を止めた。
「本当だよ。あの人が体調崩しちゃってもう店を畳むしかないと思っていたんだけど…鈴音ちゃんが来てくれたからまだもう少しこの店を続けていけそうだ」
いつも明るいしずこさんの、僅かに沈んだ声に、自然と手に力が入ってしまった。
しずこさんのご主人、倫太郎さんは少し前に体調を崩して以降、部屋に篭りがちであまり外に出られないと初めてここに来た日に教えられた。だから一つ屋根の下で暮らしているのにも関わらず、あまり倫太郎さんと話が出来たことはない。
それでも初日の挨拶、そしてその後数回話した中で、倫太郎さんが本来は働き者で感じのいい人であることはわかっていた。
しずこさんはそんな倫太郎さんの為にも、なんとかこのお店を続けたいのだと言っていた。
だから私は、こんなどこの誰かもわからない私を、何も詮索することなく受け入れてくれたしずこさんの為に、出来るだけの事をしてあげたかった。