第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「…はい!あ、でも…先に営業終了の看板みたいなの…出さなくても大丈夫ですか?」
片足を踏み出したまま立ち止まりそう尋ねると
「あらやだあたしったら!本当に気が回んなくてねぇ…よし!じゃああんたのこの店での初めての仕事だね!営業終了の看板、出すから一緒に来な」
おばさんはカラカラと笑いながら店の出入り口の方へと歩き始めた。けれども、途中で立ち止まり
「あんたの名前…まだ聞いたなかったね…」
苦笑いを浮かべながらそう言った。
「…っすみません!名乗るのをすっかり忘れていました…!私、荒山鈴音と申します」
慌てて頭を下げながら名乗った私に
「鈴音ちゃんかい。かわいいあんたにぴったりないい名前だ。私はしずこだよ」
おばさん改めしずこさんはニッコリと笑いかけてくれた。
「しずこさん…よろしくお願いします」
こうして鬼殺隊を逃げ出し、大切なものを自ら手放す事を選んだ私は、彷徨いたどり着いた場所で仮初の自分を演じる日々を過ごすことになった。
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「鈴音ちゃん、次はお団子仕込んでおいてくれるかい?」
「はい」
団子を作る粉に熱湯を混ぜ、大きな木のヘラで粉っぽさがなくなるまで力強く捏ねる。粘り気のある団子の生地をヘラ一本で混ぜるのは、確かにとても力が必要で、しずこさん1人でやるのには難しいということが簡単に想像できてしまう。
けれども、元鬼殺隊士である私にとっては朝飯前だ。
…もう良い匂いがする…
そんな事を考えながら、ヌチヌチと音を立てながら無心に混ぜていると(はっきり言ってこの音は好みじゃない)
「力仕事ばっかり頼んでごめんねぇ」
しずこさんが私の背後に立ちながらそんな事を言って来た。私は手を止めないままクルリと首だけ振り返り
「全然。こんなの軽いもんです。力は無駄にありますので、気を遣わずじゃんじゃん言いつけて下さい」
…私にはこれくらいしか出来ないもの
そんな後ろ向きな気持ちを心の奥底に沈め、しずこさんにむけ笑みを向けた。