第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
すると
「…っちょっと!何無視してんのよあんた!待ちなさいよ!」
その女性は、先程よりも大きな声でそう言った。
…あんたって…私のこと…?
その声がなにやら自分の背中に向かってきていたような気がして、私は立ち止まり、恐る恐る振り返る。振り返ると、先ほどすれ違ったはずの3人が私の方に揃って身体を向けており、鋭い視線がそこから私へと注がれていた。
…っ…何…誰…?
顔も名前も知らない相手に確かな敵意を向けられ、じっとりと、変な汗が身体から吹き出しくる。普段男性に敵意を向けられても対抗心しか浮かばない私だが、同性から、つまり女性に敵意を向けられることはどうしようもなく苦手だった。
「…私に…何か御用でしょうか?」
震えそうになる声を抑えながらそう尋ねると
「あんた、音柱様の継子の荒山って隊士でしょ?」
私が投げかけた質問は綺麗に無視され、その表情と同じく、不機嫌そうな声色でそう尋ねられる。
「…はい…そうですけど…あなたは?」
相手を刺激しないように、なるべく丁寧に返事をしたつもりだが
「っ私の名前なんて、どうでもいいのよ!っていうか、あんたになんか名乗りたくないしっ!」
「…っ!?」
返って来たのは、先ほど以上に強い敵意だった。初対面にも関わらず明らかに自分のことを嫌っている3人の様子に、私は強い戸惑いを覚える。
「…この子がぁ?全然可愛くない…ていうか、普通以下じゃん」
「ねぇ!しかも…たいして強そうじゃないし。なんでこの子が宇髄様の継子なわけ?」
真ん中の女性に続き、その女性を取り巻くように左右に立っていた2人も、私に向け同じような敵意を向けてくる。
…っ…なに…なんなの…?
私はどうしてこんな状況になっているのか全く理解が追いつかず、ただ視線を左右に揺らしながら狼狽えることしかできない。
「あんたさぁ…この道を歩いてるってことは、もしかして煉獄様のところに行こうとしてるんじゃないでしょうね?」
「…っ…!」
私の動揺がしっかりと伝わってしまったようで
「あ!その反応!絶対そうだよ!」
「えぇー!ってことはやっぱり、あの噂は本当ってこと?」
「うっそー。信じられない。最悪!」
3人はさも不快だと言わんばかりの顔をしながらそんなことを言い合っていた。