第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
なほちゃんは軽く頷きながら
「はい!この後また善逸さんのいる部屋に行くので伝えておきます!」
私のお願いを受け入れてくれた。そしてその後
「でも、相手が鈴音さんであれば、会いに行っても特に問題ないと思います!よかったら一緒に行きませんか?」
と、私のことを誘ってくれた。その誘いに乗ってしまおうかと思ったものの
…部屋には…炭治郎君も伊之助君もいるんだよね…出来れば善逸にしか聞かれたくないし…かと言って善逸を連れ出すのも…ちょっとな…
そう思い至る。
「ありがとう。でも…急ぎじゃないから、明日で大丈夫」
なほちゃんと視線を合わせ、軽く微笑みかけるようにしながらその申し出を丁重にお断りした。
「そうですか。それじゃあ、善逸さんに、鈴音さんの伝言、伝えておきますね」
「ありがとう。よろしくお願いします」
「はい!」
最後にお互い手を振り合い、仕事に戻って行ったなほちゃんの小さな背中を見送る。それから私は、住まいとしている長屋に戻るため蝶屋敷の玄関へと向かった。
廊下を進み、玄関へと辿り着いたその時
…いい匂い…この匂いは……さつまいもだ
蝶屋敷の台所がある方向から、ほんのりと甘いさつまいもの匂いがしてきた。そうすると自然と思い出されるのは
"わっしょい!"
杏寿郎さんの、悩みなんかどこかに吹っ飛ばしてしまいそうな快活な声。
最後に会ったのは、杏寿郎さんが蝶屋敷から自宅に戻って行ったあの日だ。杏寿郎さんは、私の事も自分の生家に連れ帰るとしばらくごねていた。
"蝶屋敷を出られたら1番に会いに行きますから…ね?今は帰ってゆっくり身体を休めてください"
私のその言葉を聞いた杏寿郎さんは
"わかった。必ず、1番に会いに来てくれ"
不満そうな、それでいて嬉しそうな顔をしながらそう言ってくれた。
…杏寿郎さん…会いたいな…
一度そう思ってしまったら、もう止められなかった。