第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「これですか?実はこれ、善逸さんのもので…」
「え!?善逸の!?善逸、傷口でも開いちゃったの!?」
慌ててなほちゃんに近づきそう尋ねると
「違うんです…」
「…違うの?じゃあ…何かあったの?」
なほちゃんは両眉の端を大きく下げ、困ったような表情を見せた。
「実は…」
なほちゃんの話によると、善逸のおやつを取ろうとした伊之助君と、それを阻止しようとした善逸が押し合いになったらしい。そして激しい押し合いの末、善逸が炭治郎君の頭に鼻を強打してしまったとのことだ。
普通に鼻と頭がぶつかったくらいならまぁいいのだが、炭治郎君は信じられないくらいの石頭らしく、善逸がものすごい量の鼻血を出し、その片づけに追われていたと言うことだ。
「…それで、善逸は大丈夫なの?」
「はい。大丈夫です。でも本人は、怪我の痛みと相まって相当重症だと思っているみたいで。誰か来たら面会謝絶の絶対安静というようにと言っていました。相変わらず大袈裟な人です」
なほちゃんはそう言って、困ったように笑っていた。
…今は…やめておいた方がよさそうだな…
きっと私がする話は、善逸を悩ませてしまう。こんな時に頼れるのは、弟弟子である善逸くらいではあるが、あの激しい戦いの傷も癒ず、本人が面会謝絶と言うのであれば、姉弟子である私とて会いに行くべきではない。
善逸に頼ることが出来ないと理解した時、次に頭に浮かんできたのが杏寿郎さんだった。
…杏寿郎さん…会いたいな…
ぼんやりとそんなことを考えていると
「鈴音さん?どうかしましたか?」
なほちゃんが首を僅かに傾けながらそう尋ねてくる。
「…なんでもないよ。えっと…善逸に伝言頼みたいんだけどいいかな?」
「はい!構いません!」
急なお願いにも関わらず、なほちゃんはニコニコと可愛らしい笑みを浮かべながら私の方へと顔を向けてくれた。
「ありがとう。えっと…"明日相談したいことがあるから胡蝶様の診察の後会いに行く"。そう伝えてもらってもいいかな?」