第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
そんな私に向け胡蝶様がくだした診断は、鬼殺隊士荒山鈴音にとって耳を疑いたくなるような言葉だった。
…左耳が治らない…つまり私は…もう"聴く耳"が…使えない
それを理解した途端、私の頭は真っ白になり、胡蝶様が何か説明してくれている言葉も右から左へとただ通過していってしまう。ぼんやりと膝の上に作った拳を見ていると
ポンっ
「…っ!?」
「大丈夫ですか?」
私の左肩に胡蝶様の手が置かれ、我に返った。
「…っはい!大丈夫です!」
慌てて答えた私の顔を、胡蝶様は眉の端を僅かに下げながら見ている。
「残念ですが、私にはちっとも大丈夫には見えません。やはり、鈴音さんの師範である宇髄さんにも一緒に話を聞いてもらったほうがいいですね」
「え!?そ、そんな大丈夫です!天元さん、まだ怪我が痛むだろうし、やっと雛鶴さんまきをさん須磨さんと一緒に過ごせるようになったから…その時間を邪魔したくないんです!」
昨日私の様子を見に来てくれた3人は、天元さんの傷の消毒をしてあげただの、包帯を交換してあげただの、身体を拭いてあげただの、ご飯を食べさせてあげただの…それはもう嬉しそうに、幸せそうに話してくれた。
そんな4人の時間を邪魔るすことなんてしたくはなかった。
「…そうですか。鈴音さんがそう仰るのであれば無理強いはしません。普通に生活する分には問題ないと思いまので、もうご自宅に戻っていただいて構いません。ですがまだ、任務に行くのは控えたほうがいいでしょう」
「…そう…ですか…」
「お館様には私の方から一報を入れておきますので、しばらくは機能回復訓練という形で経過を観察することにします。良いですね?」
胡蝶様は私の目をじっと見つめ、言葉の通り私の様子を観察するような目をしながらそう問いかけてきた。
「…はい」
「それでは、今日は以上です。明日も、同じくらいの時間に来てください」
胡蝶様はそういうと、カルテをパタリと閉じ、机の中にしまった。
「わかりました」
私は椅子から立ち上がり
「ありがとうございました」
胡蝶様に向け会釈し、診察室を後にした。