第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「…え…今…なんて…言ったんですか…?」
目の前の椅子に座っている胡蝶様に何を言われたか、聞こえなかったからそう聞いたわけじゃない。左耳が聞こえずとも、胡蝶様が語った言葉は、一語一句取りこぼすことな聞き取ることが出来た。
けれども私のその問いに、胡蝶様は"左耳が聞こえないせいで聞き取れなかったんだろう"と判断したようで、先ほどよりも大きな声で、先ほどと同じ内容の言葉を繰り返した。
「専門の知識がないのではっきりと断言は出来ませんが、鈴音さんの左耳の鼓膜の内側は酷く傷つけられているようで後遺症が残る可能性も大きいです。このまま元に戻らない可能性も0ではありません」
私の頭に
ガンッ
と、何か大きな物で頭を殴られたような衝撃が走った。
…左耳が…このまま治らない…?このまま…ずっと聞こえないってこと…?
胡蝶様に突きつけられてしまったその事実に、私の頭は真っ白になった。
あの壮絶な戦いから4日が経過していた。
あの後私たちは、全員蝶屋敷に運ばれて怪我の手当てを施してもらった。1番重症だったのは、やはり鎌の鬼と交戦していた時間が長かった天元さんだった。
それでも天元さんは、手当てと診察が終わるや否や
"俺はこいつらに面倒みてもらうから必要ねぇ"
と言って、雛鶴さんまきをさん須磨さんと共に音柱邸に帰ってしまった。善逸、炭治郎君、伊之助君、そして私はまぁどっこいどっこいな怪我の具合で、強いて言えば炭治郎君が1番ひどいかな…?という感じだった。
杏寿郎さんもパッと見た感じでは、上弦の参と戦った時ほどの酷い怪我ではなかった。けれども、以前ほど呼吸が使えない状態なのにも関わらず、長い時間戦い続けたことが相当負担だったのか、本人は懸命に隠していたが、かなり疲弊している様子だった。それでも、たった1日蝶屋敷で療養しただけで
"父上と弟の元に早く帰ってやりたい"
と言って生家へと帰って行った。元々蝶屋敷を拠点としていた善逸に炭治郎君、そして伊之助君は蝶屋敷に残り、私も
''左耳が戻るまではここにいさせてもらおう"
と、軽い気持ちで考え蝶屋敷に身を置かせてもらっていた。