第10章 奏でて、戦いの音を
「…あの攻撃も?」
「はい」
「でも…あんなにもしっかりと炎に包まれたのに、どうして私たちは何ともないの?」
「俺にもよくわからないんですが…禰󠄀豆子の炎は鬼にだけ効くみたいなんです」
「…凄い…」
禰󠄀豆子ちゃん自身も、一歩間違えたら”あちら側”にいたかもしれないのに、鬼にだけ効力を発揮し、鬼血術すらも打ち消してしまう力を有する禰󠄀豆子ちゃんは、”鬼”という一言で表していい存在ではないような気がした。
「…私を…天元さんを助けてくれてありがとう」
禰󠄀豆子ちゃんに視線を合わせるように膝を折り、鬼特有の瞳をじっとのぞき込みながらそう言うと
「ムゥムゥー!」
まるで”当然のことよ”と言わんばかりの表情を浮かべ喜んでいるようだった。
「…ふふふ」
禰󠄀豆子ちゃんと私、視線を合わせながら笑い合っていたその時
「「「天元様ー!!!」」」
大好きな3人の明るい声と
「禰󠄀豆子ちゃぁぁぁん!炭治郎ぉぉぉ!姉ちゃぁぁぁん!」
大好きな弟弟子の声と
「鈴音!」
大好きな杏寿郎さんが私たち4人へと近づいてきた。
ところどころ出血し、苦し気に肩を大きく上下させながら近づいてくる杏寿郎さんの姿に
「…っ杏寿郎さん!」
私は人目も憚らず駆け寄り
ドンッ
思い切り抱き着いた。
「…よかった…無事で…生きてて…っ…」
大きな背中に腕を回し、随分と汚れてしまった羽織をぎゅっと握りしめる。そんな私の背中に杏寿郎さんも腕を回してくれた。その強い力に、強打した背中が痛くはあったが、そんな痛みはどうでもいいと思ってしまえるほどに、杏寿郎さんの確かな温もりを感じられることが嬉しかった。
普段余計なことを口走りがちな杏寿郎さんも、ただ黙って”私”という存在を確かめるように私を抱きしめ続けた。
「…ちょっと待って」
その沈黙を破ったのは
「何その状況?俺何も聞いてないんだけど知らないんだけど意味わからないんだけど」
抱き合う私と杏寿郎さんを、驚愕の表情を浮かべながら見ている善逸だった。