第10章 奏でて、戦いの音を
…また始まった…
思わずそう思ってしまったのは仕方がないことだ。
「大切な恋人を”蠅”呼ばわりされて我慢できるほど俺の心は広くない!」
鎌の鬼は先程の怒り狂った表情から一変し、きょとんとしたそれでこちらを見ている。この時ばかりは、そんな様子に共感できると思ってしまった。
「今すぐ取り消してもらおう!!!」
気合十分だった気持ちを、一気に削がれた気さえする。
鎌の鬼は我に返ったようで
「いいなあ。いいなあ。互いを愛し合う恋仲同士。妬ましいなあ」
俯き、這うような声でそう言った後、バッと勢いよく顔を上げ
「2人仲良くぶっ殺してやるよ!!!」
両鎌を振り上げこちらに向かって来た。
…絶対に負けない!
日輪刀を鞘から抜き身体の前で構え、鎌の鬼の動きに全神経を注ぎ込もうとしたその時
ザッ
大きな背中が私の目の前に現れた。
その主はもちろん
「待たせたな」
鬼殺隊音柱であり、私の尊敬する師範。
「っ天元さん!」
天元さんは鎌の鬼の攻撃を日輪刀で弾き飛ばし
「【譜面】が完成した!勝ちにいくぞ!煉獄!お前は帯の方に行け!竈門とチェンジだ!」
「あいわかった!」
「荒山!攻撃はこの俺様が全部弾き返す!竈門と二人であいつの頸を斬れ!」
「わかりました!」
それと同時に指示を飛ばしてくる。瞬く間にその場からいなくなった杏寿郎さんと入れ替わるように、10秒ほど間を置いてボロボロの炭治郎君が現れた。
その間も、天元さんはいとも容易く鎌の鬼の攻撃を打ち落としていき、今まで手間取っていたのが嘘のようだった。
「竈門!荒山と2人で鬼の頸を斬れ!活路は俺が開く!」
「わかりました!」
「っ行くぜ!!!」
天元さんはそう言うや否や自ら鎌の鬼の方へと飛び込んで行った。
「炭治郎君!私が動きを合わせるからとにかく鬼の頸を狙って!」
横目でちらりと炭治郎君の方を見ながらそういうと
「お願いします!…っ行きましょう!」
力強い答えが返ってきた。
「うん!」
炭治郎君と私は同時に動き始め、鎌の鬼を押していく天元さんの背中を追った。