第10章 奏でて、戦いの音を
私は全速力で走ってきた勢いをそのままに跳躍し、くるりと身体を捻り足の裏を鎌の鬼の方へと向け
ドガッ
脇腹に蹴りを加えた。身が軽いとは言えあれだけの速度で蹴りをお見舞いすればそれ相応の威力は発揮するというもので、鎌の鬼は3メートルほど吹っ飛んで行く。
私は鎌の鬼の脇腹に両足をついた反動をうまく利用し再び身を捻ると
スタッ
杏寿郎さんの前に降り立った。藤の花で生成されたクナイを側頭部にぶち込まれるのはそれなりに苦しいようで
「…よくも…やりやがったなあ」
鎌の鬼は、私と杏寿郎さんから距離を取るように後方に飛んだ。
「やはり君は忍だな!」
杏寿郎さんは杏寿郎さんに背を向けて立つ私の腕を、少し前にそうしたのと同じような動作で引っ張ると自分の隣へ私の身を移動させた。
言いつけを破り戻ってきてしまったことを咎められるかと思っていたが
「鈴音が来てくれて助かった」
杏寿郎さんは口角をキュッと上げ、鎌の鬼を見据えながらそう言った。
「…私だって、大切な人を守る力が少しはあるんです。…天元さんはどうしたんですか?」
「宇髄は今”譜面”とやらを完成させるため、身を隠している」
「……”譜面”」
”譜面”について、前に一度だけ聞いたことがあった。
天元さんは独自の戦闘計算式をもっており、それが完成してしまえば相手の攻撃を食らうことなく、また音の隙間をぬう様に攻撃を加えられるそうだ。但しそれを完成させるのには、それなりの時間を要し、”そもそもそれを使う程の相手に最近は遭遇しねぇ”と、酒瓶を片手に愚痴っていた。
「宇髄は俺を庇い毒も食らってしまっている」
「…っそんな!?」
「あまり激しく動くと心拍が早まり毒の巡りが速くなる。譜面とやらが完成するまで、俺たちが踏ん張るしかあるまい」
そんな会話を交わしている間に鎌の鬼はすっかりと回復してしまったようで
「…お前、ぶんぶんと蠅みてえに五月蠅いやつだあ。二度と立ち上がれないようにぐちゃぐちゃに踏み潰してやるよ」
ものすごい形相で私の事を睨みつけていた。
「お生憎様。私は速さが取り柄なの。蠅なんて誉め言葉「聞き捨てならない!!!」」
”みたいなものよ”
と、続くはずだった言葉は、杏寿郎さんの怒りに満ちた声でかき消された。