第10章 奏でて、戦いの音を
「…どうか…しましたか?」
左耳を押さえながら須磨さんの方に振り向くと、須磨さんは目をキラキラさせながら私のことを見ていた。
「さっき炎柱様「鈴音、ちょっとこっちに来て」…あん!私が喋ってるのに!雛鶴さんったら酷いです!」
須磨さんが杏寿郎さんについて何か話そうとしていたようだが、まきをさんではなく珍しく雛鶴さんがそれを遮った。
やはりまだ顔色が悪く、須磨さんに背中をもたれ掛からせるようにしながら座っている雛鶴さんに合わせるように私も座る。
「左耳…血が出ているわ。かなり強く叩かれたみたいだし、やっぱり聞こえないの?」
雛鶴さんのその問いに
「…はい」
私は力無く答えた。それを聞いたまきをさんと須磨さんが、驚きの声をあげているのが右耳に聴こえてくる。片耳しか聞こえない状態は、聴く耳を使った時、音の処理が追いつかず、上手く音として認識出来ない。音を頼りに戦うなどもっての外だ。
「鼓膜が破れているのかもしれないわね。ふらふらしてしまうのも、三半規管の働きが一時的に悪くなっているからかもしれないわ」
「…ですよね」
自分でもそんな気はしていた。
「そんな状況で戦うのが危険なこと、頭のいい鈴音ならわかるわよね?」
その問いに、私は黙って頷く。
「あたしたちも、力があるのであれば今すぐ天元様のところに行きたいよ。でも、それをすれば天元様の邪魔になることがわかってるから…こうして我慢してるんだ」
まきをさんは珍しく切なげな表情を浮かべている。
「…わかってます…でも…もう少し…もう少し落ち着けば、きっと感覚も掴めて戦いに戻れるはずです!…大して怪我もしていないのに…天元さんの継子である私が、こんなところでみんなが必死に戦っているのを見ているわけにはいかないんです…!」
震える声を抑えそう言った後
ヒュゥゥゥゥゥ
私は回復の呼吸を始めた。