第10章 奏でて、戦いの音を
私に残された選択肢は一つ。
「っ響の呼吸肆ノ型…」
…タイミングを合わせて…弾き飛ばすしかない…!
はっきり言って成功するとは思えなかった。平衡感覚が元に戻らず、肺に送り込める空気量が普段より少ない。一撃で殺されることは防げても、大けがは免れないだろう。
迫りくる鎌の鬼との距離を測り、型を放とうとした
「空振波じょ…っ!?」
その時
ガッ
逞しい腕が私の腹部に回されたと認識した時には、いつのまにか屋根の上におり、そこから先ほどまで自分がいた場所を見下ろしている状態だった。
誰が助けてくれたかなんて、確認せずとも、例えあたりが土埃だらけでも、血の匂いが混じっていても、私にはわかった。
「大丈夫か?」
…やだなぁ…こんな状況なのに…その声を聴くと…心がすごく落ち着く
「…ありがとう…杏寿郎さん」
腹部に回っている手に自分の手を重ねる。
「うむ」
杏寿郎さんの腕から離れ、一人で立とうとしたが
「…っ…」
やはりまだ平衡感覚が元に戻らず、ふら付いてしまう。
「かなり強く叩かれていたようだな」
「…大丈夫です」
ふらつく頭を抑え、鎌の鬼と斬り合っている天元さんをじっと観察し、加勢に入れる機会を見計らう。けれども
「どこが大丈夫なのか俺には全く理解できない」
「…っちょ…」
杏寿郎さんの腕が再び腹部に回され、そのまま軽々と持ち上げられてしまった。
「…離して!私は…まだ戦えます!」
「嘘を言うんじゃない」
ザッザッザッザッザッザッ
建物の屋根から屋根へと跳躍し
「「鈴音!」」「鈴音ちゃん!」
雛鶴さんまきをさん須磨さんが、私たちの戦う様子を見ていた場所まで連れてこられた。
「鈴音はおそらく左耳が聴こえていない。平衡感覚も酷く狂っているようだ。これ以上戦いに参加させることはできない」
杏寿郎さんは私の事をまきをさんに引き渡すようにしながらそう言った。
「…っそんなことありません!私は…まだ戦えます!」
「いいや無理だ」
「無理じゃありません!」
「ならばはっきり言おう」
視線の先に、隻眼を鋭く細め、今まで見たこともないような冷たい表情の杏寿郎さんが映る。