第10章 奏でて、戦いの音を
けれども
…っ…攻撃の音が…止んだ…!?
来ると思った旋回の攻撃は来ず、その代わりに
バチィィィィン
「…っい゛…!!!」
「荒山!」
ありえない方向に曲がってきた鎌の鬼の手が、私の右耳を思いっきり叩いた。
脳が揺らされるような感覚と耳の奥まで走った激痛に、自分の身に何が起こったのかを理解するのに時間を要してしまう。
「これでお前は役立たずだなあ」
急に平衡感覚を失ったことより、耳に激痛が走ったことより衝撃的だったのは
…左耳が…聴こえない…!
左耳が、なんの音も拾えなくなったことだった。そんな私の首元に、鎌の鬼の腕が伸びてくるのが見えた。
「退けこの馬鹿!」
それでもやはり、私が怪我を負うことよりも、最悪死んでしまうことよりも、天元さんに余計な怪我を負わせないことがこの戦いに勝利する可能性を高めることは明白で
「…っ無理です」
私はその場に留まることを選択した。
だからと言って、そのまま簡単にやられようなどと思わない。腰に付いている鞄に手を突っ込み、一つだけあった表面にざらつきのある玉を手触りで探り当て
天元さんなら…きっとわかってくれる…!善逸…お願いだから近くにいないで…!
「目と耳!」
そう叫び
バフッ
「なんだあ?なにを投げっ…!?」
ピカッ…キィィィィィィィィン
超至近距離で、鎌の鬼へ閃光玉を投げつけた。
とっさに目を瞑り、聴こえる方の耳、右耳を塞いだ。左耳は、日輪刀を仕舞う程の時間がなく左手で2本とも持っており塞ぐことが出来なかった。それでもなんとか地面に降り立ち、日輪刀をベルトの左右に差し込む。
「…っおまえ…何しやがったあ!」
目と頭が眩んでしまう程の光と音に、鎌の鬼が放っていた旋回の攻撃は消え、天元さんの日輪刀も食い込んでいた部分から無事抜けたようだ。それでも、上弦の鬼相手に閃光玉のような目くらましの攻撃がそこまでの効力を発揮してくれるはずもなく、あっという間に視界を取り戻したと思われる鎌の鬼が
ブワッ
と、私に向かってくる。
…っ…だめだ…まだ足元がふらふらして…避けられない…!