第10章 奏でて、戦いの音を
「…っ天元さん!炭治郎君!あの旋回技が来ます!避けて!」
私のその叫びに、鎌の鬼が一瞬私の方をチラリと見た気がした。
天元さんは目配せだけで私に返事を寄越した後
「竈門踏ん張れ!!」
炭治郎君に向けそう叫ぶ。けれども、炭治郎君には天元さんの意図が伝わらなかったようで、困惑の表情を浮かべている。すると
ガシッ
天元さんと一心同体と言っても過言ではない雛鶴さんには、しっかりとその意図が伝わっていたようだ。炭治郎君が踏ん張りきれなかった分を補うように雛鶴さんが炭治郎君の背中に背負っている箱を掴み、グッと屋根瓦を踏み締める音が聴こえた。
更に耳に届いてきた
ミシッ
天元さんが脚を踏み締めようとしている音に、何をしようとしているかを理解する。
…でもあの方法じゃ…天元さんが危ない…!
その踏み込みが本格的になる直前
「響の呼吸肆ノ型…っ空振波浄!」
音の壁を作り、天元さんと未だに日輪刀に噛み付いている鎌の鬼の方へと真っ直ぐ跳んだ。
「宇髄さん!!!」
叫ぶ炭治郎君の横をすり抜け、後方に飛んだ天元さんを追いかけるように鎌の鬼の背後に回り込む。
「…っ荒山!」
私の姿を視界に映し、大きく目を見開いた天元さんの顔には"せっかく遠ざけたの何ノコノコ来てやがる!"と、はっきりと書いてあった。それに気づかないふりをしながら
ギュルルルル
鎌の鬼の両腕辺りから放たれた旋回技に、音の壁をぶつける。すると、旋回の攻撃は、天元さんにも、もちろん私にも届かないままその姿をサラリと消した。
「なんだあ?技が妙な音で掻き消されちまったなあ…さっきといい今といい…鬱陶しいなあ」
天元さんの日輪刀を噛むのをやめた鎌の鬼は、グルリと私の方に顔を向けた。
そして
「…っ!」
再びあの旋回技を放とうとする音が聴こえてきた。
すぐに離れないと攻撃されてしまう。けれども、今私が離れたら、天元さんがまともに攻撃を喰らってしまう。
「っ馬鹿野郎!さっさとそこから退け!」
私はそこから動かずに、音の壁を作り続ける事を選んだ。