第10章 奏でて、戦いの音を
キッと上弦の陸を睨みつけるも、当の本人は興味なさげに何処かへと去ろうとしている。
…っ…人の身体を…なんだと思ってるの…!?
人間にとって手が、脚が、どれほど大切なものか、"鬼"という生き物にはわからないのだろう。
ギリッと両手の日輪刀を強く握り、上弦の陸を呼び止めようと口を開こうとしたその時
「鈴音!君は怪我人の手当てを頼む!」
スッと私の前に杏寿郎さんの背中が現れる。
「…っでも「この場で1番手当てが上手いのは君だろう?鬼は俺と竈門少年でなんとかする!君は君の責務を果たせ!」…っ!」
出来ることなら杏寿郎さんの側で、杏寿郎さんと共に戦いたかった。けれども確かに杏寿郎さんが言っていることは正しい。
手足を切り落とされしまったのであれば、せっかく杏寿郎さんが助けてくれたのかも関わらず、失血死させてしまうことにもなりかねない。
「…っわかりました!」
後ろ髪を引かれながら
「…っ杏寿郎さんのこと…お願い…!」
「…っはい!」
炭治郎君にそう告げた私は
「すみません!怪我人の手当てを手伝って下さい!」
「…わかった!」
炭治郎君の後ろで立ち尽くしていた男性に声をかけ、四方から聴こえて来る声を頼りに重症人から応急処置に向かった。
…っどうしよう…怪我人が多すぎて…終わらない…!
思っていた以上に怪我人が多く、動揺し、指示に従ってくれる人も少ないせいか応急処置に手間取っていた。
そんな中でも、激しく闘う音が耳を澄ませずともはっきりと聴こえて来る。
…早く…早く杏寿郎さんと炭治郎君のところに行かないと…!
そう思えば思うほど手元が狂い、余計な時間がかかることはわかっていたが、どうしてもそう思わずにはいられなかった。
…よし!出来た!
「おい!次はこいつを頼む!」
私を頼り、どんどん集まって来る怪我人を放っておくことも出来ず
「…っ…わかりました!」
グッと唇を噛み締めながら呼ばれた方へ向かおうとしたその時
「鈴音!」
「鈴音ちゃん!」
「…っ!!!」
…この声は…!
大好きな2つの声が私の名を呼んだ。