第10章 奏でて、戦いの音を
「…もう…そんな悠長なこと言って」
「そうか?鈴音はもう少し落ち着いた方がいい」
遠くを見ていた杏寿郎さんが私の方へと顔を向け、その隻眼とパチリと目が合う。
「…絶対に…無理はしないでくださいね」
「善処する!」
「…絶対嘘だ…」
「わはは!」
「わははじゃありません!」
そんなことを言いながら互いに笑い合っていたその時
「…っ!」
「行くぞ!」
今までの静寂が嘘だったかの様な強い鬼の気配を感じ、その発生源に向け私と杏寿郎さんは走った。
…あそこだ!
目的の場所が視界に入ったその時
ガキュイン!
「…っ…炭治郎君!!!」
何かに吹き飛ばされてきたと思われる炭治郎君が、ときと屋の対面にある店に半ばめり込む様に背をぶつけ呆然としていた。
「竈門少年。落ち着くんだ」
炭治郎君の右側に私が、左側に杏寿郎さんが立ち正面を見据える。そこにいたのは
「上弦の…陸…」
瞳に"陸"の文字を刻んだ鬼だった。
「生きてるの。ふぅん。ていうか、なんか増えてるし」
上弦の陸は気怠げにそう言うと、私、炭治郎君、杏寿郎さんと順々に値踏みするかの様な視線を送ってくる。
そして杏寿郎さんのところでその動きを止めると
「あんたぁ…あいつが殺し損なったって言う柱でだねぇ。なぁに?私に食べられに態々来てくれたってわけ?」
舌なめずりをしながらそう言った。
「死に損なったと言われれば否定できない!だが俺は、君に食べられるつもりは毛頭ない!」
「いやぁねぇ…私みたいないい女に食べてもらえるなんて、幸せだと思いなさぁい」
…なんだろう…あの鬼…すごいムカつく
杏寿郎さんをまるで自分の食べ物の様に言い、無駄に甘えたような口調で杏寿郎さんに話しかけられる事が無性に腹立たしい。
「…私の大切な人を…食べ物みたいに言わないでくれる?」
場違いな発言だと頭の片隅で思いながらも、どうしても我慢ができず、上弦の陸をジッと睨みつけながらそんなことを口走っていた。