第10章 奏でて、戦いの音を
「…笑い…ませんか?…嫌じゃ…ありませんか?」
「そんなことがあるはずないだろう。ならば鈴音のこの願いを叶える為、俺と君、そして宇髄たちと力を合わせここに潜んでいる鬼を滅殺しよう」
杏寿郎さんはそう言って私の身体を
ギュッ
と強く抱きしめてくれた。
本来であれば、杏寿郎さんをこの戦いに巻き込むべきではない。前線を退き、隊士の育成に専念すると決めた杏寿郎さんは、正式にはもう柱ではなく、任務にあたることも無くなったからだ。
それでも杏寿郎さんを慕うたくさんの隊士たちが、みな当たり前のように杏寿郎さんのことを"炎柱様"と呼び続け、"俺はもう柱を引退した身であり炎柱ではない!"と、杏寿郎さんが何度となく言っているのにも関わらずそれを聞き入れることをしなかった。
だから杏寿郎さんは、"次に柱となれる者が育つまで"と言う条件のもと"炎柱"として振る舞い続けてくれているのだ。
…無理はさせたくない…でも…杏寿郎さんが一緒に戦ってくれるなら…どんな事があっても最後まで戦える気がする…
「…っはい!」
これから鬼との戦いが始まろうとしているのに、私の心は安心感と幸福感で満たされていた。
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隊服に着替えた私と杏寿郎さんは、ときと屋の屋根の上で炭治郎君が来るのを待っていた。
今日をもって遊郭の潜入も終わりとなる為、念のため部屋に
"足抜けします"
と、一言だけ書いた手紙を残してきた。
手持ちの爆玉、薬、そしてクナイの数を確認し終えたがまだ炭治郎君は現れない。
「…遅いですね」
もう既に日が落ち始めているというのに、炭治郎君の気配を近くに感じ取ることができず焦りを感じていた。
「世話になった人にきちんと挨拶をしてから来ると言っていたからな!こんな時でも礼を尽くそうとするのは竈門少年のいいところだ!」
杏寿郎さんは腕を組み、遠くにある夕焼け空を見つめながら言った。