第10章 奏でて、戦いの音を
「…俺も共に残るって…どういう事です?」
「そのまま言葉の通りだ。君がこの場に残って戦うと言うのであれば、俺も帰らずにここで君と共に戦おう」
「そんなの…ダメに決まってるでしょう!?杏寿郎さんはもう以前と同じように呼吸は使えないんですよ!?視野だって…右目が見えない分狭くなってるんですよ!?」
思わず身を乗り出し、自分の右手を杏寿郎さんの左頬へと添えながらじっと、今ではすっかりと見慣れてしまった隻眼を覗き込んだ。
「そうだとしても俺は鈴音よりも強い。毎日後輩育成をしながら自分の鍛錬を怠ったことは一度たりともない。最近では父上にも稽古に付き合ってもらっている。君に心配される程、俺は弱くない!」
「…っそれは…そうですけど!…それでもダメです!杏寿郎さんを危険な目に合わせるわけには行きません!ご家族だって待っているはずでしょう!?お父様に、弟さんに…いらぬ心配をかけてはダメです!」
「父上にも弟の千寿郎にも、好いた女性のために戦いに出ると既に伝えてある。止めてもどうせ聞かないのだから好きにするように言われた!なんの問題もあるまい!」
「…っでも…」
杏寿郎さんにもし何かあったら…あの時のように大怪我を負ってしまう様なことがあれば…そんなの…考えるのも嫌…っ!
尚も食い下がろうとする私の右手を杏寿郎さんがガシッと掴み
「…っ!」
そのまま強く手を引かれ、その厚い胸板に引き寄せられる。咄嗟に両手をついた杏寿郎さんのそこは、着流を着ていても十分に鍛え抜かれている事がわかり、この人を頼ってしまいたいと思う甘い自分がチラリと顔を覗かせた。
「俺の身を案じてくれていることはもちろん承知している。だが、それは俺とて同じだ。本来であれば、こんな場所に君を送ることも許可したくはなかった。だから俺の、君を案ずる気持ちも理解してはくれないか?」
「…」
その言葉に私は何も言うことができなかった。
…私にとって何が1番大切なんだろう
それすらもわからなくなってしまい、私は杏寿郎さんの着流をギュッと強く握りしめる。