第10章 奏でて、戦いの音を
「私は、絶対に帰りません」
真っ直ぐと杏寿郎さんを見据えそうはっきり告げた。
私がそう言うことなど杏寿郎さんにはお見通しだったようで
「そうか」
驚いた様子を見せる事なく、けれども先程の優しい笑顔とは違い、真剣な表情で私をじっと見据えそう言った。
「だがこれは上官としての命令だ。従わなければ隊立違反として罰せられることもあり得る」
「ならばそれで構いません。減給でも、降格でも甘んじて受け入れます」
お金なんて、階級なんてどうだっていい…私はただ、互いを想い合う天元さん雛鶴さんまきをさん須磨さんの姿を…私の凝り固まった心を解すきっかけをくれたあの愛溢れる4人の時間を取り戻せれば…それでいい
「杏寿郎さんが…炎柱様がどう言われても、私は私の意志を変えるつもりはありません」
杏寿郎さんは私の言葉に口を真一文字に閉じ、恋人としてではない、一鬼殺隊士荒山鈴音の言葉を厳しい表情で聞いているようだった。
部屋には沈黙が流れ、聞こえてくるのは部屋の外から聞こえてくる楽しそうな話し声のみ。
互いに目を逸らす事なくしばらく睨み合う事数十秒
「…元より君ならそう言うと思っていた。わかった。鈴音の意思を尊重しよう」
杏寿郎さんは表情を変えることなくそう言った。
「…っ本当ですか!?ありがとう「その代わり、俺も君と共に残る!」……はえ?」
真剣な話をしているのにも関わらず、驚きのあまり私の口からはなんとも間抜けな声が出てしまった。
「わはは!随分と気の抜けた返事だな!」
杏寿郎さんは、相当私の声が面白かったのか、先程までの緊迫した空気が一切なかったかのように楽しげに笑っている。
そんな様子に危うく釣られて笑ってしまいそうになるも、杏寿郎さんが言った言葉を思い出し、慌てて言葉の意味を問いただす。