第10章 奏でて、戦いの音を
「…っ私…絶対に…絶対に帰りませんからっ!!!」
姿は消えたが、きっとまだ近くにいるであろう天元さんに向かいそう叫ぶ。
このままここに留まり戦いたいと思う気持ちは、炭治郎君もそして伊之助君も同じだったようで、炭治郎君は静かに、けれどもその内側に確固たる意志を感じるような瞳をしながら。伊之助君は見るからにやる気満々で激しく息巻いた様子でここに残ると言ってくれた。
「それじゃあ、日が沈む前に"荻本屋"で!」
「はい!」「おうよ!」
そう約束を交わした炭治郎君、伊之助君、そして私の3人は、一旦別れそれぞれ遊郭での仕事をこなしながらも迫り来る戦いの時のために準備を整えることとなった。
その約束を果たすために、私は、私を迎えにやってくるという杏寿郎さんを何としても追い返さなければならない。
…あの杏寿郎さんが帰りませんと言ってはいそうですかと聞いてくれるとは思えない…でも…杏寿郎さんに何を言われようが…私は絶対に帰らないんだから…!
そんな決意を胸に抱き屋根から飛び降り一階の屋根へと音もなく着地した。そのまま静かに歩き、自室から1番近い窓へと向かう。
窓の前まで辿り着き中の気配を探りそばに誰もいない事を確認し
「…っと」
スルリと建物の中に入り、自室へと足速に戻った。
自室に戻った私はこれ見よがしに着替えることもせず、さも具合が悪いですと言わんばかりに布団にくるまっていた。
心配してくれた同室の女の子が
"大丈夫?お医者さん呼ぼうか?"
と声をかけてくれたが
"食べすぎただけだから大丈夫。寝てれば良くなるよ"
なんで答えたのが悪かったのだろう。昼見世の時間が始まる少し前からのろのろと、やはり具合が悪い様子を醸し出しながら自分の持ち場に向かおうとしていると
「鈴音ちゃん女将がまた来いって〜」
「………わかった」
思っていた通りお呼びがかかり、あからさまに嫌な顔をしながらそう答えてしまったのだった。
「あっは!あっからさまぁ〜!」
なんて笑う同僚に無表情で手を振った私は、のろのろと、それはもうのろのろとした足取りで女将の元へと向かった。