第10章 奏でて、戦いの音を
「本当に上弦が潜んでいるのであれば、いくら天元さんが柱だからって1人で戦えるとは思えません。炭治郎君と伊之助君はともかく、私は上弦と戦った経験もあるし、天元さんとの連携なら誰よりも上手く取れます。だからお願いです。帰れなんて言わないで…一緒に戦わせてください」
私の"炭治郎君と伊之助君はともかく"の言葉が癪に触ったのか、隣から伊之助君がその可愛らしい顔に似合わない野太い声で
「あぁん!?なんだとこの猫女!?」
と言い、今にも私に追突してきそうな勢いで身を乗り出している。そんな伊之助君を
「落ち着いてくれ…っ伊之助!」
炭治郎君が背後から羽交締めにしていた。けれども、今の私はそんな事を気にしている場合ではない。
「お願いです!私も天元さんと一緒に戦わせてください!」
そうお願いするも
「だめだ。確かにお前となら連携は取りやすい。だが今お前に渡せるクナイも、爆玉も、薬も、ほとんど無ぇ。あれなしで、お前が100%の力を発揮できるとは思えねぇ」
天元さんは首だけ僅かに振り返り、私を睨みつけるようにしながらそう言った。
「…っそれは…そうですけど…」
あれらはいつも、雛鶴さんまきをさん須磨さんが私の為にと作ってくれていたものだ。3人がこの場にいない今、その準備が出来るのは天元さんだけ。けれども生憎、今の天元さんに、私の為に割くような時間は少しも無い。
天元さんは、腕を組みながら私の方に振り向き、いつもとは違う真剣な表情を浮かべると
「いいか。これは命令だ。上官の命令に背くことは許さない」
私を更に睨みつけながらそう言った。
「…っこんな時だけ上官面しないで下さい!」
「煉獄にお前を迎えに来るよう言ってある。それまで大人しくしとけ」
「…っどうして…そんな勝手な事…」
言いたいことはまだあったが、天元さんは、私と同じように食い下がろうとする炭治郎君と伊之助君に、"機会を見誤るな"と再び撤退するように告げると、フッと砂埃だけを残しその場から姿を消してしまった。