第10章 奏でて、戦いの音を
先程までいた部屋から厠へと向かう廊下にある窓の前で立ち止まり、前、そして後ろを振り返る。
…よし、誰もいない
念のため辺りの気配を探り、近くに誰もいないことを確認すると、音を立てないよう静かに窓を開けた。
ガッと足をかけ、そのままヒョイと近くの木に音を立てないようにしながら飛び移る。そのままグッと両足に力を込め2階の屋根まで一気に跳躍した。
カタッ
僅かに音が立ってしまったものの、無事ときと屋の屋根にたどり着く。たどり着いたそこにはすでに
「あ!鈴音さん!」
「猫女!」
炭治郎君と素顔の伊之助君(猪頭をつけていない姿は本当に見慣れない)が三角屋根の天辺で向かい合うように座っていた。
「遅くなってごめんね!」
炭治郎君の背後にまわり
「私が最後だと思ってたら善逸がまだなんだね」
2人に倣い座ろうとすると
「善逸は来ない」
「「!!」」
「天元さん!」
天元さんが屋根の淵に近いところにいつのまにか座っていた。
天元さんの口から善逸が連絡不通になった事、遊郭に潜む鬼が"上弦"であるかもしれない事、そしてそうだった場合、炭治郎君、伊之助君、そして私では太刀打ち出来ず、最悪の場合待っているのは死である事が語られる。それから
「お前たちはもうここを出ろ。後は俺一人で動く」
と、私たちに背を向けながらそう言った。
…上弦の鬼がいるかもしれないから…私たちじゃ力不足だから帰れって?天元さん一人で戦うって?…なにそれ…?
立ち上がり、両手にギュッと握り拳を作り、天元さんの背中を睨むように見る。
「嫌です。私は…雛鶴さんまきをさん須磨さんを置いて逃げることなんて絶対に出来ません。善逸も、私のたった1人の弟弟子です。見捨てるなんて絶対にありえません」
そんな命令、納得がいくはずがない。